エネルギー危機対策急ぐフランス 原発重視路線 国民も支持

観光地消灯で節電呼び掛け

記者会見するフランスのマクロン大統領(AFP時事)

フランス政府は秋以降に訪れるエネルギー危機に備えた対策を発表するとともに、欧州レベルでの相互協力やエネルギー調達の多角化に取り組んでいる。またマクロン大統領が決めた原子力発電の原子炉6基増設などを通じ、ウクライナ戦争でのエネルギー危機と2050年までのカーボンニュートラル(脱炭素)に同時に対処しようとしている。(パリ・安倍雅信)

フランス政府はエネルギー危機への国民の意識を高めるための象徴的措置として、パリのエッフェル塔に続き、ルーヴル美術館とベルサイユ宮殿の消灯時間を17日から早めている。

歴史的建造物が多いフランスでは、夜の照明が国内外の観光客を魅了してきた。長時間照明を断念する決定はエネルギー危機の深刻さを物語るものだ。

「シンボル的存在は国民意識を高めるインパクトがある」。マラク文化相はこう語り、今後は美術館、映画館、劇場などすべての文化施設に同様の措置を求めるとしている。

一方、ボルヌ首相は、今年11月以降、エネルギー危機が一気に高まるとの認識を示し、「危機が期間限定的だというのは幻想だ」と述べた。ボルヌ氏は今後数年間のエネルギー節減を呼び掛けるとともに、経済的影響を抑えるために、年末までに実施する一連の対策を明らかにした。

主な対策の一つは、関税シールドを2023年まで延長することだ。昨年秋に導入された同システムを延長しなければ、ガスと電気の価格は1月と2月にそれぞれ15%上昇する。二つ目の重要な措置は、1200万人の最貧世帯を対象として100~200ユーロの支援を行うことだ。

さらにビジネス面では、売上高が100万ユーロ未満の中小企業をエネルギー料金特別措置の対象とし、昨年に比べて利益が減少した企業は、エネルギー料金が売上高の3%以上であれば、引き続き200万ユーロの支援を受けることができる。

政府は企業にエネルギー消費量を10%削減するよう求めており、ファッション業界最大手のモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社(LVMH)は、オフィスや店舗の照明を午後10時から午前7時まで落とす措置を発表。航空大手エールフランスは、エネルギーを節約するために在宅勤務に切り替える方針を打ち出した。

フランスのエネルギー卸売市場は今夏、メガワット時当たりの 価格が1000ユーロに達し、昨年9月と比べ10倍になった。ただ、実際に国民が支払う電気・ガス代は関税シールドの恩恵を受け、今年の上昇率は4%に抑えられている。

政府は、平均的な4人家庭でエネルギー代が家賃を上回る事態は、何としても避けたいとしている。そのためには現在全エネルギー供給の7割を占める原子力発電で保有する56基の原子炉のうち、32基が保守点検中で停止しており、供給が20%減っている問題を早期解決する必要がある。

政府は50年までに6基の原子炉に加え、小型原子炉など新型を含め計14基の増設を計画。一方で、天然ガスの新たな調達ルートとして、石油輸出国機構(OPEC)加盟国最大の天然ガス埋蔵量を持つ旧植民地、アルジェリアからの天然ガス調達を目指している。

マクロン氏は今月上旬、ドイツのショルツ首相と会談し、ドイツで大幅に減少する天然ガスを供給する代わりに、ドイツがフランスに電力を供給することを提案し、合意した。

フランスは現在、50年までの脱炭素化で、原子力と再生可能エネルギーの二つに絞り込んで目標達成しようとしている。そのため、原子力発電を再評価し、投資を増やす通称「原子力ルネサンス」に取り組んでおり、国民の6割以上が支持している。

ウクライナ戦争とエネルギー危機を乗り切る戦いは始まったばかりだが、フランスの対策が功を奏するかは未知数の部分が多い。