【社説】IPEF会合 民主的ルールで中国に対抗を

米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に参加表明した日米やインドを含む14カ国が、米ロサンゼルスで初めて対面形式の閣僚級会合を開催した。会合では、民主主義の価値観に基づく「21世紀型ルール」の構築に向けて正式な交渉開始を宣言する閣僚声明を採択した。

インド太平洋地域で影響力を高める中国に対抗するため、自由で公正な経済秩序の形成を進めるべきだ。

供給網分野に高い関心

IPEFは、米国の復帰が現時点では困難な環太平洋連携協定(TPP)の代替策として、民主主義の価値観に基づく貿易・投資の共通ルールを設ける枠組みだ。「サプライチェーン(供給網)」「クリーン経済」「貿易」「公平な経済」の4分野を対象にしている。参加14カ国の国内総生産(GDP)は世界の約4割を占める。

バイデン米大統領は昨年10月の東アジアサミットでIPEFの構想を明らかにした。中国の経済圏構想「一帯一路」に対抗し、質の高いインフラ投資を促す狙いがある。

新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した供給網分野には、全参加国が高い関心を寄せている。台湾海峡をめぐる米中の緊張が高まる中、各国は有事の際に半導体や医療物資の在庫を融通する供給網づくりに優先的に取り組む考えだ。これは、半導体や鉱物資源、食料を貿易相手国に対する威圧の「武器」として扱う中露への過度な依存から脱する上で重要である。

IPEFは各国が関心のある分野を自由に選べる制度設計にしており、デジタル経済を含む貿易分野はインドを除く13カ国が参加する。残る3分野には全14カ国が加わる。

一方、IPEFには関税の引き下げや撤廃は含まれない。米国内の産業や雇用への悪影響を懸念する声が根強いためだ。

だが米国で自国の製品をもっと売りたい各国にとって、関税を扱わないIPEFはメリットに乏しい面がある。中国との結び付きが強い東南アジア諸国連合(ASEAN)などの参加国には、米市場開放の魅力を欠くとの指摘が多い。

TPPはオバマ元政権が中国包囲網の形成を目指して推進したが、米国の産業や雇用を脅かすとしてトランプ前政権が離脱した。バイデン政権も労働者層への配慮から保護主義的姿勢を示しており、TPP復帰を進めることに消極的だ。

インド太平洋にはTPPのほか、日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)といった大型の自由貿易協定(FTA)が複数存在するが、いずれも「米国不在」だ。会合に出席した西村康稔経済産業相は「米国がTPPから離脱後、インド太平洋地域への経済的な関与を再び明確にしたことは大きな意味がある」と述べた。

米のTPP復帰に尽力を

中国は過剰融資による「債務のわな」に途上国を陥らせて支配力を強めている。こうした覇権主義的な動きを見過ごすことはできない。日本はIPEFの実効性を高めていくとともに、米国のTPP復帰にも尽力する必要がある。