
韓国最大野党「共に民主党」の党首で、今年3月の大統領選で尹錫悦氏(現大統領)と一騎打ちを演じた李在明氏が先週、李氏が関わる数々の不正疑惑を捜査中の検察から在宅起訴された。10件以上とされる李氏の疑惑で違法や不正が立証された場合、同党への打撃は必至だ。(ソウル・上田勇実)
ソウル中央地検と水原地検城南支部は今月8日、李氏を大統領選挙期間中に2件の「虚偽の事実を流布」したという公職選挙法違反の容疑で在宅起訴した。
韓国では昨年以降、李氏が城南市長時代に造成された市内の大型宅地開発をめぐり不透明な巨額収益が明るみになり、問題視されてきた。これに関わった実務担当者が自殺した翌日、李氏はマスコミのインタビューで担当者のことを「知らない」と述べたものの、李氏が海外出張時に担当者と一緒に撮った写真が公表され、物議を醸した。
もう一件は、市内にある別の宅地開発の用地をめぐり、李氏が昨年10月の国会国政監査で朴槿恵政権時の「国土交通省から脅迫され、やむを得ず用地変更した」と述べたこと。実際にはそうした事実はなかったことが明らかになったという。
今回の起訴には時効ギリギリで踏み切った「時間切れ起訴」の側面があり、容疑の内容も李氏をめぐる疑惑の全体像から見て「氷山の一角」(与党「国民の力」院内報道官)にすぎない。李氏の不正疑惑に対する真相究明はこれからが本番と言える。
李氏は市長時代からその過激な発言が物議を醸し、一部で「韓国版トランプ」などと称された。行政手腕が高く評価される一方、大統領候補として取り沙汰されるようになった頃から、保守派を中心に一国の指導者としての資質を問題視する向きが強まった。数多くの疑惑や道徳的問題が頻繁に指摘されてきたためで、「李在明大統領では国の品格を落とす」(大手シンクタンク関係者)と嫌悪する声もあった。
各種疑惑で特に目立つのは、市長任期中に手掛けた三つの大型不動産開発を舞台に不自然な巨額収益が発覚したり、収益金の行き先が不透明なこと。このうち大庄洞という場所の宅地開発では、特定企業が出資割合をはるかに上回る数千億ウォンの利益を手にするよう李氏が計画段階から把握していた可能性があることや、この企業の100%出資者が李氏の知人だったことが分かっている。
また李氏自身が球団主であるプロサッカーKリーグに所属する「城南FC」に160億ウォンを後援した地元企業が、李氏側から各種便宜を図ってもらった疑いや、今回起訴されたものとは別の公職選挙法違反容疑で訴えられた裁判で、李氏との関係が取り沙汰される企業に数十億ウォンの弁護士費用を肩代わりさせていた疑いが浮上した。
さらに夫人の金恵景氏をめぐっても、夫が京畿道知事だった時期に同庁の法人カードを私的流用した疑惑まで持ち上がっている。
これまでに各種疑惑の関係者4人が自殺に追い込まれ、李氏周辺ではすでに逮捕・起訴された人も出ている。関係先への家宅捜索も進み、検察はいよいよ李氏本人を取り調べる本丸攻めで、収賄や背任などの立証に取り掛かろうとしているようだ。
共に民主党は今回の在宅起訴について「軍事政権よりひどい検察政権による政治弾圧」と猛反発。同党にとって李氏は大事な次期大統領候補であり、つぶされるわけにはいかない。
同党は、文在寅政権下で遅々として進まなかった李氏に対する疑惑追及が今後、検事出身の尹大統領の下で拍車が掛かるとみて、李氏を6月の国会議員補選で公認候補にして当選に導き、不逮捕特権を持たせた。その後、李氏を党首に選出し、起訴されても党首を辞任しなくてもいいように党則変更するなど「三重の防弾着を李氏に着せた」(韓国紙セゲイルボ)状態だ。
今後、捜査の行方次第では与野党の対立は一層激化しかねない。ねじれ国会の状態が解消されていないだけに、外交を含め尹政権の国政運営にも影響が出そうだ。



