イラン核合意、再建へ最終文書

イスラエル 代理勢力への資金流入懸念

8月24日、エルサレムで記者会見を行うイスラエルのラビド首相(イスラエル政府報道局提供)

核兵器保有は時間の問題

欧州連合(EU)の仲介によるイラン核合意再建に向けた米国とイランの間接交渉が合意に近づいている。イランと敵対関係にあるイスラエルは、再建による経済制裁解除でイランが支援する代理勢力に資金が流れるとして懸念する。(エルサレム・森田貴裕)

トランプ前米政権が離脱したイラン核合意の再建交渉を仲介するEUは8月8日、再建に向けた「最終文書」を米国とイランの双方に提示した。イランは、最終文書に回答し、イラン革命防衛隊に対するテロ組織指定解除の要求を取り下げた。イランの回答に関して関係国と共に精査を続けていた米国は、精査は終了しEUに回答したと明らかにした。イランもEUを通じて米側の意見を受け取ったと発表した。

イスラエルのラピド首相は24日、エルサレムでの記者会見で、「新たな核合意は、イランの核兵器保有を阻止するというバイデン米大統領自身が設定した基準を満たしていない」と主張。米欧諸国に対し、イラン核合意から手を引くよう求めた。イスラエルのガンツ国防相は26日、ホワイトハウスでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談し、「核合意は平和条約ではない」「米国は新たな核合意に達したとしても、イランの核施設に対する実行可能な軍事的選択肢を確実に保持する必要がある」と語った。実行可能な軍事的選択肢は、イランが核合意に違反して核兵器を開発することに対する強力な抑止力になるという。

イスラエルはイランの核兵器保有を認めていない。また、イラン核合意には拘束されないという立場を取ってきた。必要ならばイランに対する軍事行動も辞さないとしている。イスラエル軍は7月、イランに対する軍事作戦の準備を行っていることを発表している。

イスラエルのテルアビブ大学国家安全保障研究所(INSS)のイラン問題の専門家であるラズ・ジムト博士は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、イランに対する軍事作戦が実行されたとしても、イランの核開発を2、3年遅らせることしかできないと述べた。イランには核開発に必要な知識や技術があり、核施設が破壊されたとしても、すべてが復旧可能であり、イランの核兵器保有は時間の問題だという。

ジムト博士によれば、イランは、イスラエル軍がすぐに攻撃を仕掛けてくるとは考えていないという。たとえイスラエルにイランを攻撃する意図があるとしても、地下核施設を攻撃する能力に欠けることや、米国の承認なしにイランを攻撃する可能性が低いことも認識しているという。

イランはすでに核弾頭を搭載できるミサイルを保有している。また、国際原子力機関(IAEA)の報告書によると、イランは少なくとも核弾頭1発を製造するのに十分な高濃縮ウランを保有している。

イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏は、新たな核合意は、2015年の核合意と同様に、ウラン濃縮や核弾頭製造に必要な高濃縮ウランの蓄積をせいぜい8、9年遅らせるだけと指摘する。イスラエルは、新たな合意によってイランの経済制裁が解除されれば、イランが数十億㌦を得ることになり、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラ、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマス、パレスチナの過激派組織「イスラム聖戦」などイランの代理勢力の強化に資金が流用されることを懸念している。

ベンイシャイ氏は、イランの核兵器保有を阻止するためには、イスラエルと米国が共同で新しい戦略を策定する必要があると提言する。この戦略には、①イランが核兵器を秘密裏に開発することを防ぐための厳格な情報監視②イランが核兵器開発プログラムを再開または合意に反してウランを濃縮した場合の対策③イランが合意違反となる条件を明記した米イスラエル協定④実際にイランが核兵器を取得した場合、イスラエルと米国の共同または単独の行動原則に関する理解――が必要という。

イランは、IAEAによる核開発プログラム監視の停止を求めている。米国とイランによる新たな核合意がなされたとしても、イランの核保有を阻止するには、永遠に続く核合意である必要がある。そうでなければ、イランはいずれ核兵器を手にするだろう。