「出汁の原点」精進料理で頂点

「全日本高校生WASHOKUグランプリ2022」 石川県金沢市

写真上は相可高校の谷口立樹さん(左)と辻太朗さん。下はグランプリに輝いた「精進御膳」(いずれも金沢市提供)

「全日本高校生WASHOKUグランプリ2022」の決勝大会がこのほど、石川県金沢市で開かれた。「出汁(だし)を使った和食」をテーマに、今回で3回目になる。食物科や調理科で学ぶ全国の高校から、書類審査を経て6校が審査員の前で腕を振るった。グランプリには三重県の県立相可(おうか)高校チームの「精進御膳」が輝いた。(日下一彦)

三重県立相可高校チームに栄冠

創作デザートで悪戦苦闘も

次世代を担う料理人の発掘、育成が大会の狙いで、全国の食物科、調理科などで学ぶ28校から28チームが参加した。昨年までは100を超えるチームが参加していたが、今年はコロナ対策のため、1校1チームに絞られた。

「出汁を使った和食」をテーマに、事前にレシピで応募し、書類審査を通った6校が、8月9日、金沢市のイノベーション施設「金沢未来のまち創造館」の調理室で本番に臨んだ。2人ペアで地元の食材を使い、審査員の試食用と撮影用など3点を制限時間の70分以内に仕上げ、「創造性及び独自性」「色彩及び盛り付けの美しさ」「栄養のバランス」「手際の良さ」などが審査された。

グランプリを獲得した相可高校の「ミエイコラ」(チーム名・谷口立樹さんと辻太朗さん=共に3年生)は、審査員を前にプレゼンテーションし、「出汁について調べると、日本料理の出汁の原点が精進料理だと分かり、挑戦しました」と説明した。

作品は「伊勢芋のとろろかけご飯」に「レンコン餅の椀」、煮物、白あえ、そして創作デザートの「わらび餅」。これはスイカの汁だけで仕上げた。

調理を終えて審査員5人から、創作の動機や苦労した点、出汁に対する考え方などを求められ、谷口さんは精進御膳を選んだ経緯について、「精進料理が日本料理の出汁の原点だと分かった。甘味、酸味、苦味など6味の中でも、精進料理には酸味が最も大切だとされています。酸味は味を上品に引き立たせ、暑い夏を乗り切る上でも必要です」と語った。

また、精進料理には肉や魚が使えないので、「表面を油でカラっと揚げると、おなかにたまり、腹持ちが良くなると学びました」と述べ、工夫の跡を審査員に伝えていた。

料理全体で最も苦労した点を聞かれると、辻さんは「スイカの汁だけで作ったデザートでした」と答え、悪戦苦闘した経緯を説明した。まず関連する参考資料が何もなく、すべて手探りで取り掛かったが、思い通りの柔らかい食感がなかなか出ず、かたくり粉の分量を何度も微調整しながら、ようやく目指す柔らかさにたどり着いたことを明かしていた。

 審査委員長を務めた日本料理「銭屋」主人の高木慎一朗さんから、「日頃から精進料理を食べることがあるか」との問いに、谷口さんは「機会はほとんどないので、こうしたコンクールを通して味わうことができて、とても良かったです」と答えていた。

 相可高校の他には、向陽台高校(大阪府茨木市)はタイの出汁にこだわり、天然水とアルカリ電解水、ミネラルウオーターで出汁を取ったところ、アルカリ電解水によってコクと香ばしさがよく出たと報告した。また、私立鹿児島高校はシカ肉を使うなど、高校生らしい斬新なアイデアで挑戦した様子を発表していた。

 総評で高木さんは、「食物に携わる皆さんは、こうした大会だけでなく、日頃の生活の中でも、しっかりと出汁を使ってほしいし、その良さを味わってほしい」と要望した。また、茶道の立場から千宗屋さん(武者小路千家家元後嗣)は、正式な茶会では懐石料理が振る舞われると述べ、「日本料理には三つの『キ』が欠かせない」と指摘。すなわち、「季節の旬のものを使う」「料理を引き立たせる器」「温かい料理は温かいうちに、冷たい料理は冷たいうちに食べてもらう」と3点を挙げ、さらに「食べてもらう相手のことを思い、気を使って作ってほしい」と加えた。

 なお、決勝には前述の3校の他、長野県屋代南高校、滋賀県綾羽高校、沖縄県浦添工業高校が進んだ。優勝した相可高校には金沢の工芸作家によるオーダーメードの器セット、市内の料亭での研修や食事体験などの目録が贈呈された。