
ロシアによるウクライナ侵略で日本の食料安全保障が揺らいでいる。
自給率向上や過度な輸入依存からの脱却などを図り、国産体制を強化する必要がある。
露の侵略で価格高騰
ロシアとウクライナは共に世界有数の穀物輸出国で、特に小麦や大麦の生産が盛んなウクライナは「欧州のパンかご」と呼ばれてきた。しかし、ロシアの侵略に伴う輸出停滞で世界的な食料不足と価格高騰が起きている。輸出は今月から再開されたものの、本来であれば国際社会が一致団結して対応すべき事態である。
だが、日本や米国、中国、ロシアなど21カ国・地域で構成するアジア太平洋経済協力会議(APEC)がオンライン形式で開いた食料安全保障担当相会合では、日米など西側諸国がロシアの侵略が食料危機を招いていると主張したのに対し、ロシアが反発。全会一致が必要な共同声明の採択が見送られる事態となった。民主主義国と専制主義国の対立が食料問題にも影を落としている。
ただ、食料の安定供給を脅かすのはウクライナ危機だけではない。人口増加や気候変動なども食料不足に影響することが懸念されている。日本としてはウクライナ危機への対応と共に中長期的な対策が求められる。
食料安保強化に向けた最大の課題は食料自給率の向上だ。2021年度はカロリーベースで38%と先進国の中で最低基準にとどまっている。
品目別では、米が98%であるのに対し、小麦は17%、大豆は26%にとどまる。政府は30年度の食料自給率を45%とする目標を掲げているが、自給率を下支えしてきた米の需要量は、人口減少や食の多様化の進行で減少傾向にあるのが現状だ。
こうした中、高騰する輸入小麦の代替品として米粉が注目されている。国産の米粉パンを1人が1カ月に3個食べると、自給率が1%向上するとも試算されている。米粉の活用が広がればコメの需要量が増えることも期待できよう。
また、飼料自給率の向上も食料安保強化には重要だ。政府は30年度の目標を34%としているが、20年度は25%にとどまる。牧草や稲わらなどの粗飼料が76%であるのに対し、トウモロコシや大豆油かす、魚粉などをミックスした配合飼料は12%にすぎない。
配合飼料価格もウクライナ危機などの影響で高騰している。飼料自給率を上げれば飼料費が低減し、畜産農家の経営安定につながる。水田や耕作放棄地の活用で飼料生産を強化する必要がある。
輸入への依存避けよ
農林水産省は来年度予算の概算要求で、要求総額を今年度当初予算比17・7%増の2兆6808億円とする方針だ。国産穀物・飼料の供給体制強化など食料安保の確立と農林水産業の持続的な成長促進に重点配分するとしている。具体的には、国産の麦や大豆、米粉用米の生産体制を整備するという。
これまでのように輸入に大きく依存することはできない。政府は強い危機感を持って食料安保の強化に取り組んでほしい。



