北海道・北東北の縄文遺跡群 世界文化遺産登録から1周年

北の縄文道民会議常務理事・事務局長 戎谷 侑男氏に聞く

官民学連携で潜在力引き出せ

地域の理解得て保存・継承 自然と共存した縄文時代

先月27日で「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録されて1周年を迎えた。同遺跡群の世界遺産登録は文化遺産として北海道では初めてのこと。今後の取り組みなどについて、北海道中央バス観光事業推進本部副本部長で、これまで遺産登録に向け先陣を切ってきた北の縄文道民会議常務理事・事務局長の戎谷侑男氏に聞いた。(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

 えびすたに・ゆきお 1946年滝川市生まれ。北海道中央バス株式会社入社。91年、中央バスグループの旅行会社シィービーツアーズ設立に関わり、2007年同社代表取締役に就任。21年4月、北海道中央バス観光事業推進本部副本部長に就任。現在、北の縄文道民会議常務理事・事務局長。

――北海道・北東北の縄文遺跡群が先月27日に登録され1年が経ちました。この間、新型コロナウイルスによる感染拡大で旅行などが抑制されてきましたが、登録された遺跡群への観光客などの入り込み状況はいかがでしょうか。

確かに2年余りにわたる新型コロナウイルスによる感染拡大は旅行業界のみならず、宿泊や土産品業界など多くの分野にわたって影響を与えてきました。そうした中で昨年7月、15年に及ぶ世界文化遺産登録への取り組みが実ったわけですから、これは本当に嬉しいことだったと今でもその感動が残っています。登録後、それぞれの縄文遺跡への訪問客は、新型コロナ禍の中ではありますが多くの方が訪れているという報告を受けています。それによると、道内登録遺産6カ所合計の訪問客数は令和2年が4万1381人だったのが、3年は10万9388人と2・6倍の伸びを見せ、さらに今年は4~6月期の3カ月間で5万4000人が訪れています。

――北海道・北東北の縄文遺跡群は北海道と青森県、秋田県、岩手県に17カ所の構成遺産と2カ所の関連遺産から成っていますが、この1年間、旅行業界あるいは地元の具体的な変化はどうですか。

北海道は関連遺産を含め6カ所の縄文遺跡がユネスコの世界文化遺産に登録されました。これはすなわち、それらの遺跡が世界的に文化的価値を有しているという“お墨付き”を与えられたともいえます。従って、そうした貴重な文化的資源を有効活用し、観光や街づくりにつなげていくという思いは地元でも高まっています。

私どもバス業界の立場からいえば、すでに世界遺産に登録される前後からバス会社同士が連携し、縄文遺跡の現地視察やバスガイドの実地研修を進めてきました。また、当社でも登録以前から縄文遺跡を巡る観光ツアー商品を提供し人気を博してきました。そして、今年の夏から新たに定期観光バスによる運行を始めることにしました。具体的には今月末から二つの縄文遺跡を巡るコースを運行実施する予定です。一つは、世界文化遺産の入江・高砂遺跡(洞爺湖町)と北黄金貝塚(伊達市)を巡るコースで、期間は8月21日から9月19日まで。毎週月曜日(9月19日の祝日は運行)と8月27、28日を除き毎日運行します。

もう一つは、キウス周提墓群(千歳市)やアイヌ民族をテーマにしたナショナルセンター「ウポポイ」(白老町)、仙台藩白老元陣屋町資料館(同)を巡るコース。こちらは8月23日から10月30日までの期間。毎週月曜日(ただし9月19日、10月10日の祝日は運行)および9月20日、10月1~7日、10月11日を除いて毎日運行。どちらも1日で回るコースとなっています。

一方、地元の盛り上がりも活発でこれまで以上に整備が進められています。例えば、キウス周提墓群についていえば、登録以前は林の中に窪みのある土地が点在しているという感じだったのが、今では解説するガイドが常駐、駐車場も広く整備され見学しやすくなっています。キウス周提墓群は新千歳空港に近く、道外からの観光客を対象としたツアーに組み込まれるなど関心の高まりを見せています。

また、地元では世界文化遺産登録にちなんで、独自のアイデアを凝らした商品の開発やサービスの展開が目立っています。函館では九つのスイーツ店が一堂に会し、縄文人が食したであろう食材を使ってクッキーやチョコレート、ケーキを一斉に売り出す「函館縄文スイーツ・フェスタ」を開催しました。遺跡に隣接した食堂やレストランで縄文クルミソフト(垣ノ島遺跡)や縄文ピザ(キウス周提墓群)を販売し、札幌市内でも縄文カレーや縄文鍋を提供するお店が登場するなど、今後、縄文文化に関連した商品の提供はますます活発になると思います。

――縄文時代は1万年以上続いたと言われ、世界的に見ても稀有な文化だと言われています。そうした文化・学術的な分野での価値も高いことから、教育的効果もありますね。

教育という視点から見れば、世界文化遺産登録後は中学・高校の修学旅行で訪れるケースは非常に多くなっています。それだけを見ても縄文遺跡群には教育的効果があるということを裏付けていると思います。

縄文時代は自然と共存しながら貧富の差もそれほどなく、大きな争いのない平和な時代が1万年以上続いたとされています。さらに精巧な土器の製作や土偶に象徴されるように祭祀の跡が見られ高い精神性を有したことが分かってきました。

これまで縄文時代を詳しく見ると、SDGs(持続可能な)社会が長きにわたって続いているなど現代の課題解決に大きなヒントになるものが提示されているのを見れば、学校での教育テーマに十分なり得ると思います。従って、学校の授業の中に北海道の縄文文化について教える時間を設けて生徒に教えてほしい。さらに言えば、学校の先生が縄文文化について詳しく学べる態勢を取ってほしいというのが私の願いです。

――今後、世界文化遺産となった縄文遺跡群を次世代に継承していくにはどのような点に留意すべきだと思いますか。

2012年から始まった北海道・北東北の縄文遺跡群を世界文化遺産に登録させようという道民運動は、昨年7月27日をもって達成しました。しかし、それが目的なのではなく、むしろ、そこからが始まりだと思っています。前述したようにユネスコから「世界的な文化的価値を有した遺跡」とお墨付きを戴いたわけですから、しっかりと保存・継承していくことが大事。そのためには地域の人たちの理解と参加が不可欠です。地元住民が遺跡に誇りを持ち、知識を深めながら世界に発信していくことができるならば、地域の活性化にもつながっていくと思います。そのためには地元での普及啓蒙セミナーや小中学校、高校を含めた教育機関の取り組みも大事になってくると思います。

また、海外からの観光客を受け入れるためのインフラの整備も大事。これまでも北海道開発局には遺跡までの道路標識を設置していただき有り難く思っていますが、今後は往路でも設置していただくなど、きめ細やかな対応が必要だと思います。さらに、道の駅などと連携して地元の農産物などを提供するなど、地元の経済効果を生み出すことも考える必要があります。そうした官民学の有機的な連携が、縄文遺跡群が持つ潜在的な可能性をさらに大きく引き出していくものと考えています。


【メモ】戎谷事務局長は登録以前から幾つもの縄文ツアーの企画や縄文栗焼酎の商品を企画するなど、縄文遺跡群の登録に向けて奔走してきた。登録1周年を境に、これからは6カ所の遺跡の活用さらには道内の他の遺跡との連携も考え、一時のブームではなく持続的な縄文文化の普及啓蒙に尽力している。