【上昇気流】(2022年8月16日)

オニヤンマ

台風8号通過後の雨もよいの空の下、帰省先で先祖の墓参りをした。墓は里山の一画にあるので、久しぶりに田舎の自然に触れるいい機会でもある。墓所に着くころには幸い晴れ間も出てきた。

アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシの合唱の蝉時雨(せみしぐれ)の中を行く。大きなアゲハチョウがふっと目の前をかすめ木立の中に消える。夏だな、と思う。

でも、何かが足りない。そう、トンボの姿を一匹も見ないのだ。透明の羽を左右にピンと張って、滑空する姿には自然の気が満ちている。そのトンボがめっきり少なくなった。

トンボの幼虫ヤゴは水の中に生息する。その姿が減ったのは、やはり農薬の使用や、小川のコンクリート護岸、ため池や沼の減少などが原因と思われる。

トンボばかりではない。ハチやアブも減った。今年は台風通過後の夏らしくない天気だったこともあるのかもしれないが、年々減ってきている感じがする。昔はこの季節、夜になると街灯の周りに蛾(が)やコガネムシをはじめいろんな昆虫たちが集まってきて、昆虫採集の格好のポイントにもなっていたが、最近はあまりいなくなった。

日本の里山で、生物の多様性を根本から脅かす変化が進行しているのだろうか。寂しさと不安の交じった思いで墓所を後にする途中、殻の大きさが5㌢近くもある立派なカタツムリが歩道の上を這(は)っていくのに出会った。少し慰められる思いがした。ご先祖様のお使いだったのかもしれない。