墜落する尹大統領支持率

検事重用の閣僚人事に国民反発

知り合いの韓国メディアの東京特派員から質問を受けた。「首相の囲み取材というのはどの程度の頻度で行われるのか」と。官邸に出入りする際、待ち構えている記者団の問い掛けに答える場合もあれば、素通りすることもある。決まりはない、と答えたが、特派員氏がなぜ聞いてきたか、そのわけは後ほど分かった。

尹(ユン)錫悦(ソンニョル)大統領が韓国大統領としては珍しく囲み取材に小まめに応じていることが韓国メディアで報じられるようになった。出勤途中の略式記者会見「ドアステッピング」である。もともと、ドアステッピングは取材者側の待ち伏せ、つまり「夜討ち朝駆け」を指すが、韓国ではその習慣があまりなかったようで、略式会見とか簡易会見と言っている。

尹大統領が執務室を青瓦台から龍山の国防部庁舎内に移した。これは青瓦台があまりにも「権威主義的」で庶民から遠かったからで、庶民目線で国民に親しまれる大統領を演出しようとしたものだ。囲み取材もその一環である。

ところが、その努力にもかかわらず、尹大統領の支持率は急落した。月刊中央(8月号)が「墜落する大統領支持率」の記事を載せている。これほど早く“墜落”した大統領はいない。5月の就任から2カ月で30%を切ったのだ。

就任後100日間程度は大統領とメディア、国民の関係はそうそう悪化しない。まずは「お手並み拝見」する期間を与えるのだ。任期5年の大統領に「国政運営の動力を用意させる期間」だという。

だが尹氏は就任以来下降を続け、7月には支持と不支持が逆転する「デッドクロス」を迎え、その後も下げが止まらない。歴代大統領の就任3カ月間の支持率は金(キム)泳三(ヨンサム)と金(キム)大中(デジュン)で71%、李(イ)明博(ミョンバク)52%、朴(パク)槿恵(クネ)42%、文(ムン)在寅(ジェイン)81%であるというから、その低さが群を抜いていることが分かる。

同誌はその原因について、「人事乱脈は支持率下落の最大原因に挙げられる」としている。長官(閣僚)人事が国民の反発を招いているというのだ。「国政哲学よりも『検察』という2文字で国民の脳裏に刻印された」というほど、検察からの登用が目立つ。「尹錫悦師団と呼ばれた特捜部検事出身者を大挙要職に就け“検察共和国”という汚名が付けられた」としている。

囲み取材の“サービス”も逆効果

また「気さくなイメージを強調した広報戦略もかえって支持率には逆効果」になった。囲み取材のことである。政権スタート直後でもあり、メディアとしては毎日でも囲み取材をしたいところだが、もともと韓国の大統領は公式記者会見を在任中、何度も開かない。それを尹大統領は「5月11日から7月8日の間に24回」も囲み取材を受けた。これまでの政権とは大違いの“サービス”ぶりなのだ。

ところがこれの評判が良くない。囲み取材では当意即妙の受け答え能力が要る。この24回の囲みで尹大統領が最も多く使った単語が「そうだな」(52回)、「とにかく」(10回)だったという。中身がないのである。

こうした試みがうまくいかず、それでした言い訳がまた反発を買った。「民主党政権時代はしなかった」とか、人事でも「前の政権で指名された長官で、こんな立派な人がいたか」など、ことごとく前政権を持ち出して追及をそらそうとするのだという。「一言二言投げて、執務室へ向かう姿には当惑せざるを得ない」と同誌もさじを投げている。

さらに「金(キム)建希(ゴンヒ)リスク」だ。「就任後は内助に努める」「令夫人と呼ばず、大統領の配偶者と呼んでほしい」などと謙遜な雰囲気を出していたが、大統領の外遊に「私人」を同行させるなど、行動に批判の声が増えてきた。

こうした逆風に対して尹政権は「前政権の安保関連イシューを連日浮上させることで」状況転換を試みているが、同誌は「限界がある」と見切っている。安保イシューとは脱北漁民強制北送還事件(2019年)と海水部公務員殺害事件(20年)だ。これを持ち出して、当時の政府の措置に問題があった、とはまるで“積弊清算シーズン2”である。

スタートから躓(つまず)いた政権は歴代政権と同じような行動を取らないとも限らない。わが国は関係改善を見据えつつも、同時に尹政権の状況を見極めていく必要がありそうだ。

(岩崎 哲)