
一部重症化の恐れも
新型コロナの「第7波」のさなか、「サル痘」が日本にも上陸した。8日現在、感染者が3人確認されている。いずれも男性だ。
厚生労働省によると、サル痘はサル痘ウイルスによる急性発疹(ほっしん)性疾患。「サル」の名が付いているが、このウイルスはアフリカに生息するリスなどのげっ歯類やサル、ウサギなどの野生動物が保有。これらに噛(か)まれたり、血液・体液・発疹などに触れることで人に感染する。これまでは人から人への感染はまれとされてきた。しかし、今年5月以降、欧米を中心に急増し、世界80カ国余りで1万8000人を超える事態になっている。
感染すると、1、2週間の潜伏期間を経て、発熱や体の痛みのほか、顔や手に発疹が出るが、ほとんどは軽症で自然に治る。しかし、妊婦・子供が感染すると、重症化する恐れもある。実際、死者も出ている。このため、世界保健機関(WHO)は7月23日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
そこで注目すべきはテドロス事務局長の発言。感染者の98%は男性同性愛者(ゲイ)だという。一方で、差別・偏見に警告を発した。そこで思い出されるのがAIDS(エイズ=後天性免疫不全症候群)だ。これも当初はゲイの間で広がった。彼らに行動変容を促すのは簡単ではない上、対応が後手に回ったのだ。人権への配慮が対応を難しくしたのだろう。
その結果、女性・子供にまで感染が拡大。過去40年間に、世界で累積死者2500万人を数え「音のない戦争」と言われる悲劇を招いてしまった。その責任の一端は感染の高リスク層に対し、強く警鐘を発するのを怠ったマスコミにもある――。
WHOの対応の理由
前書きが長くなったが、そんなことを考えながら、「池上彰のニュースそうだったのか!!」(テレビ朝日、7月30日放送)を見た。時事問題を分かりやすく解説するこの番組で、サル痘を取り上げたのだ。そこでジャーナリストの池上は次のように語った。
「サル痘は、本当に濃厚な接触をしなければうつらないと言われている。飛沫(ひまつ)感染する可能性があると言われているが、一般的にはそんなに簡単にうつるものではない」
確かに、新型コロナと違って、簡単には感染しない。では、なぜWHOが緊急事態宣言し、感染者の98%はゲイだと明らかにしたのか。感染症は初期対応を間違えば、制圧できるものもできなくなる。エイズのように失われる必要のない命を多数奪うケースもある。サル痘だって、すでに死者が出ているし、ウイルスが変異し、致死率が高くなる恐れもある。
だが、池上は感染につながる「濃厚な接触」とは何かについては全く触れないばかりか、サル痘は「新型コロナよりも研究が進んでいる。軽症で自然に回復するケースが多いので、そんなに心配する必要はない」と強調した。もちろん、いたずらに不安を煽(あお)るべきではない。しかし、今は感染リスクの高い層は限られていても、感染拡大すれば、それ以外の人に広がるのは目に見えている。ゲイへの過剰な配慮から、警鐘を鳴らすのを怠ったというほかない。
楽観的な意見に不安
では、なぜゲイの間で感染が広がっているのか。詳しく説明する紙幅はないが、端的に言えば、肛門性交と不特定多数との性行為がポイントだ。
筆者は1985年、日本で初めてエイズ患者が確認された時、ゲイ専門のラブホテルを取材した。オーナーの説明では、1階のバーで“パートナー”を探し、気が合えば部屋に「しけ込む」のだという。その時、エイズ拡大の背景が分かった。
今は「出会い系アプリ」があり、パートナー探しはさらに容易になっている。それをとがめる人間に対しては、人権偏重のLGBT(性的少数者)運動を後押しするリベラルなメディアが「差別・偏見だ」と集中砲火を浴びせる。そんな状況で「心配の必要はない」とは、楽観的過ぎる。ジャーナリストとしての池上の見識を疑うとともに、サル痘の感染拡大に不安を覚えずにおれなかった。
(敬称略)
(森田清策)



