ペロシ氏訪台、欧州の視点 支持するも負担増懸念

ウクライナに加え危機拡大なら

米下院議長のナンシー・ペロシ氏が2日夜(現地時間)、台湾を訪問した。同訪問については欧州でもトップニュース扱いで報じられた。その背後には、ロシアのプーチン大統領がロシア軍をウクライナに侵攻させたように、中国の習近平国家主席がペロシ下院議長の台湾訪問を契機に台湾海峡に軍事侵攻をするのではないか、という懸念があるからだ。

ベアボック独外相は7月22日の公共ラジオ・ドイチェラントフンクのサイトのインタビューの中で、中国による台湾侵略の可能性について西側の諜報(ちょうほう)機関が警告していると指摘、「ロシアのウクライナに対する侵略戦争と同じ過ちを犯さないようにしなければならない。欧州はロシア産のエネルギー供給に依存してきた。同じ過ちを繰り返さないためにも、中国への経済的依存を減らすべきだ」と述べている。

ベアボック外相はまた1日、ニューヨークで開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に出席し、「大きな隣国が国際法に違反して小さな隣国を攻撃することは受け入れられない。もちろん、それは中国にも当てはまる」と語った。同発言は中国を激怒させ、中国外務省欧州部長の王魯通氏は2日、北京のドイツ大使に正式に抗議しているほどだ。

オーストリア国営放送のドリンガー北京特派員は「ペロシ氏は米国ではバイデン大統領、ハリス副大統領に次いで3番目に位置する政治家だ。中国は外国人政治家を判断する場合、人物より、その地位を重視する。だから米国3番目の政治家ペロシ氏の台湾訪問に脅威を感じているのだ」と解説していた。

独週刊誌シュピーゲル電子版(8月3日)はペロシ下院議長の台湾訪問について「欧州の政治家は団結して中国に対応すべきだ」と結束を呼び掛ける一方、ペロシ下院議長の台湾訪問の「時期」については疑問を呈している。欧州のメディアの中には、「ペロシ氏の台湾訪問は米中間選挙(11月8日)への民主党アピールを狙ったものだ」という見方もあることは事実だ。

欧米諸国はウクライナ戦争への対応に追われている。この時、中国側を刺激させ、台湾海峡への軍事行動という冒険に走らせるような言動は慎むべきだ。ペロシ氏の台湾訪問は台湾の再統合という「中国の夢」に駆られる習近平主席をあおる危険性があるからだ。

実際、中国外務省は2日、ペロシ氏の台湾上陸直後、「米国は火遊びをしている、火で遊ぶ者は火で死ぬだろう」と報じた。ちなみに、習近平国家主席は先週、ジョー・バイデン大統領との電話会談で同じ言葉を使用している。

中国外務省のスポークスマンは2日夜、「中国人民解放軍は厳戒態勢にあり、標的を絞った一連の軍事行動で対応する」と述べ、米国を威嚇している。

それに対し、ペロシ氏は台湾に到着後、米国の台湾への支援を保証し、米国の揺るぎないコミットメントを強調し、「世界が独裁か民主かの選択を迫られている今、2300万人の台湾と米国の連帯はこれまで以上に重要だ」と述べている。

米国は中国に対し「一つの中国ドクトリン」を堅持し、1979年以来、台湾との外交関係は途絶えたが、民主国家の台湾にはさまざまな軍事的支援を行ってきた。台湾が中国の軍事攻撃を受けた場合、米国は軍事支援をするかどうかについて、米国は「戦略的曖昧さ」でぼかしてきたが、バイデン大統領は5月、「台湾危機には米国は軍事支援を提供する」と発言。その声明が報じられると中国側は大反発。ホワイトハウスもバイデン大統領の発言の影響を抑えるため腐心せざるを得なくなったばかりだ。

ドイチェラントフンクの安全保障専門家マルクス・ピンドュア氏は「米国は、バイデン大統領の下で、インド太平洋地域で新しい同盟、いわゆる『クアッド』、米国、インド、日本、オーストラリアの非公式の4カ国同盟を立ち上げた。同盟国に共通しているのは、中国を潜在的な脅威と捉えていることだ」と説明している。

ウクライナ戦争では欧州は米国と結束し、ロシア軍の攻撃を受けるウクライナを支援し、武器供給も行ってきた。台湾はウクライナとは違って地理的には距離があるが、台湾危機が単に台湾海峡、南シナ海の安全を危機に陥らせるだけではなく、欧州を含む世界にも大きな影響が波及するとの認識でほぼ一致している。

同時に、ウクライナ戦争に台湾危機が加われば、欧米諸国にとっても軍事的、経済的に大きな負担となることは避けられない。それだけに、ペロシ氏の台湾訪問について「原則」支持だが、その影響を考慮して慎重とならざるを得ない、というのが欧州の実情だろう。

(ウィーン・小川 敏)