ロシアの侵略で滞っていたウクライナからの穀物輸出が再開される見通しとなった。
輸出再開はロシア、ウクライナ、仲介したトルコと国連の4者の合意によるものだが、ロシアは合意事項を確実に履行すべきだ。
オデッサにミサイル攻撃
ウクライナは小麦やトウモロコシの世界有数の輸出国だが、ロシアの侵略でオデッサなど黒海沿岸の港からの輸出がストップしたため、2000万㌧以上の穀物が滞留しているとされる。これが世界的な穀物価格の高騰を引き起こし、とりわけウクライナ産の穀物に大きく依存している中東やアフリカ諸国は食料危機に瀕している。
ロシアはこれまで食料危機について、欧米諸国による経済制裁が原因だと主張してきた。穀物を人質に取る形で、自国への制裁の緩和を要求してきた。
しかし、このような詭弁(きべん)は通用しない。対露制裁に加わらなかった開発途上国からの非難が起きることを恐れ、可能な限りの見返りを得ることを条件に合意したものと思われる。その意味で、不承不承の合意であることは明らかで、それを示すかのように、合意の翌日、オデッサ港にミサイル攻撃を行った。
合意では、黒海を航行する船や関連の港湾施設を攻撃しないこととなっている。これに対しロシア側は、精密誘導ミサイルによって港内の修理ドック内の軍艦と米国製対艦ミサイルの保管庫を破壊したと主張。国連安全保障理事会でもロシアを非難する発言が相次いだが、ロシアは合意に反するものではないとし、「今後もウクライナ軍の施設を破壊し続ける」妨害行為を公然と主張している。
穀物輸送の再開は、ロシアが合意を誠実に履行するか否かにかかっている。国際社会は厳しく監視していく必要がある。
国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)は穀物輸送が再開されるとの見通しを明らかにし、オデッサなど黒海沿岸の3港からの輸出能力を、ロシアの侵略前の毎月計約500万㌧の水準に戻したい考えも示した。また、食料危機に直面するソマリアなどを支援するため、世界食糧計画(WFP)がウクライナから搬出される穀物を買い上げることを検討しているという。
合意に基づき、輸送船の出入りを管理する「調整センター」がトルコのイスタンブールに開設された。ウクライナのゼレンスキー大統領は南部のチョルノモルスク港を訪れ、トルコの貨物船への穀物の荷積み作業を視察した。
黒海と地中海を結ぶボスポラス、ダーダネルス両海峡を管理するトルコが、合意成立に重要な役割を果たしたことは評価できる。国民の大半がイスラム教徒で中東諸国との関わりも深いトルコとしては、合意に力を注がざるを得ない面があると同時に、国際的な存在感を高める狙いもあったと思われる。
対露制裁を継続せよ
ロシアの出方はまだまだ不透明なところがある。戦況によっては、再び穀物を人質に取ろうとするかもしれない。ウクライナへの支援と対露制裁を続けていく必要がある。



