今年の防衛白書は、ロシアのウクライナ侵略や台湾に対する中国の脅威の増大などを踏まえ、国際情勢の厳しさを前面に押し出す内容となっている。
中露の連携強化を警戒
白書はウクライナ侵略に関し一章を設け、ロシアの行為は国際法違反であり「一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず……決して許すべきではない」と厳しく非難するとともに、中露の軍事連携強化の動きを「懸念を持って注視していく」と警戒感を示した。
中国を「安全保障上の強い懸念」と捉えるのはこれまでと同じだが、ミサイル戦力などを中心に「軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している」と指摘。覇権主義的な行動は「近年より一層強まっている」とし、沖縄県・尖閣諸島周辺での海警船などの航行や中国軍艦の日本周回行動を念頭に「事態をエスカレートさせる行動は全く容認できるものではない」と批判のトーンを強めた。
また台湾情勢の記述を増やして台湾側が想定する台湾有事のシナリオも紹介し、中台の軍事緊張がさらに高まる危険性を指摘したほか、台湾情勢の安定が日本の防衛にとっても重要なことを強調している。
ミサイル発射実験を繰り返している北朝鮮については「わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と位置付け、潜水艦発射弾道ミサイルや極超音速ミサイルの開発など攻撃態様の複雑・多様化を追求していることに警戒感をあらわにした。
国際情勢に厳しい認識を示したことに加え、防衛力強化や安全保障政策の基本方針見直しに国民の理解を得ようとする姿勢が強いことも今年の白書の特色である。年末に向けて「国家安全保障戦略」などの改定作業を進めていることに触れた上で、保有を検討中の「反撃能力」(敵基地攻撃能力)について初めて白書で解説し、それが自衛の範囲であり、かつ「先制攻撃」とは異なることを強調している。
防衛費については、維持経費の割合が高く新規事業の着手が困難な現状や、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国内総生産(GDP)比2%の国防費を目指していることを紹介。それに比べ日本の防衛費が少額に留(とど)まっているとして、増額の必要性に理解を求めている。
最初の防衛白書が刊行されたのは1970年10月で、本文は僅かに67㌻。今年の白書は500㌻を超える大部で、ダイジェスト版(別冊)や小学校高学年以上を対象とする「はじめての防衛白書」も作成されるなど隔世の感がある。防衛政策の重要性が高まり、自衛隊の役割が拡大したことの反映と言えよう。
防衛力の強化を急げ
初の防衛白書の巻頭で当時の中曽根康弘防衛庁長官は、自衛隊をめぐる憲法論議や極寒の訓練で身を守るため自衛官が「防寒具を自費で」補っている現状の改善を訴えている。自衛隊の憲法明記や自衛官の勤務環境改善は、半世紀を経た現在も未(いま)だに実現できていない。防衛省は防衛白書を通して、厳しい国際情勢に対する国民の認識を深めるとともに防衛政策への理解と支持獲得に努め、防衛力の強化を急ぐ必要がある。



