ロシアによるウクライナ侵略などをめぐって、日米欧などの民主主義陣営と中露などの権威主義国家の陣営との対立が激化している。
こうした中、鍵を握るのがインドの動きだ。民主主義陣営が中露への牽制(けんせい)を強める上で、いかに「非同盟」のインドを引き入れるかが問われている。
冷戦期に「非同盟」貫く
インドネシア・バリ島で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、ウクライナ危機をめぐる先進7カ国(G7)側と中露の溝が埋まらず、4月の会合に続き共同声明を採択できなかった。インフレや食料危機などの課題が山積する中、インドも参加するG20の機能不全が浮き彫りとなったと言える。今後、親しい国同士が他の陣営を排除する動きが強まる可能性がある。
インドは日米、オーストラリアとの4カ国の枠組み「クアッド」の一員である一方、中露、ブラジル、南アフリカと共に新興5カ国(BRICS)を構成する。日米欧がロシアに厳しい姿勢で臨む中、インドは国連の安全保障理事会と総会での対露非難決議案の採決で、いずれも棄権した。対露制裁にも加わっていない。
背景には、インドが冷戦期、東西どちらの陣営にも属さない「非同盟」の外交方針を貫いたことがある。パキスタンや中国との国境対立を抱える一方、旧ソ連に対する米中共闘で米国からの武器購入が困難な中、ソ連を頼ったことがロシアとの親密な関係につながっている。近年は米国からの武器輸入も増えつつあるが、軍備の半分以上が今もロシア製とみられている。
しかし、インドは「世界最大の民主主義国」と言われる。そうであれば、権威主義国家のロシアが国際法に違反してウクライナを侵略するという暴挙を強く批判しなければなるまい。「法の支配」は民主主義の根幹である。今後はロシアとの軍事協力関係も徐々に弱め、欧米との関係を強化すべきだ。
想起したいのは、凶弾に倒れた安倍晋三元首相とインドとの関係である。安倍氏は2007年8月、インド国会で「二つの海の交わり」と題して演説。「太平洋とインド洋は自由・繁栄の海としてダイナミックな結合をもたらしている」と述べた。こうした見方が後に「自由で開かれたインド太平洋」構想につながった。
安倍氏はインドを重視し、モディ首相やシン前首相と信頼関係を築いた。安倍氏の死去を受け、モディ氏は自身のホームページに「私の友人、安倍さん」と題した日本語と英語の追悼メッセージを掲載。死去の翌日、インドは全土で喪に服した。
対露制裁参加を求めよ
ウクライナ危機の中、欧州ではフィンランドとスウェーデンが軍事的中立の立場を転換して北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、全加盟国が両国の加盟議定書に署名した。
岸田文雄首相は民主主義陣営の立場からインドに対露制裁に加わるよう強く求めるべきだ。それとともに自由と民主主義に基づくインド太平洋地域の経済成長と安定実現のため、インドとの協力を強める必要がある。



