
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、将軍・源頼朝が死んで、いよいよ有力御家人たちの血で血を洗う権力闘争が始まる。この闘争を北条義時が勝ち抜いて執権の座に就くのがメインストーリーだから、これまでは長い序章とも言える。
大泉洋さん演じる、ちょっと頼りなくて軽い感じの頼朝は、これまでの果断にして時に冷酷なイメージを覆すものだったが、悪くなかった。武家の棟梁、八幡太郎義家の嫡流、武士たちの中の“貴種”の自覚と育ちの良さも備えていた。
この頼朝像は、小栗旬さん演じる主役の義時を「頼りになる男」として引き立てるためのものでもあるのだろう。しかし、永井路子著『つわものの賦』(文春文庫)を読むと、案外それが実際の頼朝に近いのではないかと思った。
『吾妻鏡』に描かれた頼朝は挙兵時、佐々木定綱ら4兄弟の遅参に気をもみ、味方の一人一人に「頼りにしているのはそなただけだぞ」と囁(ささや)いたりする。永井さんは「どうも卑屈で小心で、頼りないことおびただしい」と言う。
その理由として、北条氏編纂(へんさん)の『吾妻鏡』が北条氏は礼賛するけれども、頼朝を見る目には容赦がないことを挙げている。それでも「人間の素顔は誰しもこんなところではあるまいか」と結んでいる。
そうだとすれば『吾妻鏡』の北条氏はよく書かれ過ぎている面もあるということになる。真相は果たしてどうだったのかと考えながらドラマを見れば、興味も倍増するだろう。



