バイデン米政権 中国の迂回輸出疑惑を不問に

太陽光製品で中国依存の懸念 自然エネルギー推進を優先

東南アジア諸国からの太陽光関連製品の輸入に対して、2年間にわたって新たな関税を課さないことを決めたバイデン米大統領(UPI)

バイデン米政権が、中国メーカーによる関税回避が疑われる東南アジア諸国からの太陽光関連製品の輸入に対して、2年間にわたって新たな関税を課さないことを決めたことが波紋を呼んでいる。中国企業による太陽光関連製品をめぐっては強制労働の問題が指摘されるほか、中国依存を深めることへの懸念が広がっている。(ワシントン・山崎洋介)

バイデン大統領は6月、クリーンエネルギー推進目標の達成に必要な十分な量の太陽光関連製品を輸入することができていないとして、国家非常事態を宣言。2年間にわたって東南アジア4カ国からの製品に新たな関税を課さないことを決めた。

太陽光関連製品の不足は、米商務省が3月、中国の太陽光パネル製造業者がマレーシア、ベトナム、カンボジア、タイの東南アジア4カ国を経由して輸出することで米国の関税を不当に迂回(うかい)しているかどうかについて調査を開始したことがきっかけだ。業界団体の太陽エネルギー産業協会(SEIA) は、この調査により、多くの太陽光発電メーカーが輸出を控えるようになり、300以上もの大規模太陽光プロジェクトが中止または延期され、混乱を招いていると訴えていた。

今回の非常事態宣言は、商務省の調査により仮に関税回避が事実として認定されたとしても、米国にとって輸入の8割を占める東南アジア4カ国からの太陽光関連製品について新たな関税を2年間、課さないとする。つまり、自然エネルギー推進のため、この期間、関税回避問題を事実上、不問に付した形だ。

バイデン政権は、自然エネルギーへの移行を掲げ、太陽光を現状の3%から急拡大させる方針。2035年までに太陽光で電力需要の約4割を賄うことが可能だとしている。しかし、今回の宣言によって、強制労働の疑いが指摘される中国製の太陽光関連製品に伴う人権問題を容認することになりかねない上に、中国依存を深めることへの懸念から、党派を超えた批判が起きている。

シェロッド・ブラウン上院議員(民主党)は非常事態宣言について、「米国の生産能力を十分に高めることに投資していない上に、中国の度重なる不正行為に対処していない」と苦言を呈した。また、米議会の中国タスクフォース議長であるマイケル・マッコール下院議員(共和党)は、関税の免除について、「ジェノサイド(大量虐殺)や強制労働と関係があると政権が認定した製品に恩赦を与える」ことになると批判した。

また、調査の早期終了を求めてホワイトハウスにロビー活動を行ってきたSEIAの加盟企業には、ジンコソーラーやJAソーラーなど強制労働に関わっている疑いが指摘される中国メーカーの米子会社も含まれており、中国との関係の深さが問題視されている。

迂回輸出疑惑を調査する発端となった請願書を商務省に提出した太陽光パネル業者「オーキシン・ソーラー」のマムン・ラシッド最高経営責任者(CEO)は、今回の非常事態宣言によって「バイデン氏は中国が資金を提供する特別な利益団体に、米国の貿易法の公正な適用を免れるための扉を大きく開けてしまった」と厳しく非難した。

さらに、オバマ元政権の通商代表部副代表を務めたロバート・ホレイマン氏は、今月9日のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)への寄稿で、中国依存を深めれば、「将来、中国が報復措置として太陽光関連製品の輸出を停止すると脅してきた場合に脆弱(ぜいじゃく)になる」と警告した。

太陽光発電技術はもともと1950年代に米国で開発された。しかし、中国政府による業者への巨額の補助金により世界市場を席巻し、今では太陽光パネルの生産に占める中国企業のシェアは約8割超に拡大した。

ホレイマン氏は、バイデン政権が中国による迂回輸出を黙認すれば、「強制労働や安全保障問題について中国の責任を追及する取り組みが活発化しているまさにその時に、中国に合格点を与えることになる」と指摘。中国への依存度を低下させるために、米議会に国内での太陽光製品の生産を拡大するための措置を求めた。