【社説】自公過半数/「志」固め国難克服に挑戦を

安倍晋三元首相を悼み、開票センターで黙とうする岸田文雄首相(自民党総裁、中央)ら=10日夜、東京都千代田区

第26回参議院選挙が投開票され、自民、公明の与党が改選過半数を獲得し、非改選と合わせて過半数維持に必要な55議席を確保した。

昨年の衆院選に続いての与党の勝利により、国民は岸田文雄政権を信任したことになる。

岸田カラー出す環境に

今後3年間は国政選挙の予定がないため、岸田首相は安定政権を土台に岸田カラーの強い政策を打ち出すことのできる環境が整った。「志」を固め、憲法改正、経済再生、少子化対策などの国難克服に挑戦し解決に向けた覚悟を示してもらいたい。

選挙中、岸田首相が強調した重要政策の一つが憲法改正だった。首相は「喫緊の課題であり、できるだけ時間をかけずに国民に選択していただく機会をつくるべく、努力しなければならない」と訴え、早期に国会で改正案を発議し、国民投票の実施を目指す考えを強調した。

その改正案の発議に必要な議席数は3分の2の166以上必要だが、改憲勢力とされる自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党の合計は非改選と合わせてそれに必要な82議席を超えた。数の上では最低条件をクリアしたことになる。

次の問題は、4党の改憲内容の温度差をどう埋めていくかだ。維新の馬場伸幸共同代表は「衆院憲法審査会を『毎週開け』と言い続け、先の通常国会では何と(開催回数が)最高記録になった」と強調していたが、開催することが評価される時代は過ぎた。各党が主張する中身を議論し合い、改憲原案をまとめる作業に入り、発議にこぎ着けられるかが新たに問われよう。

演説中、凶弾に倒れ死去した安倍晋三元首相の尊敬した幕末の志士・吉田松陰は「志定まれば、気盛んなり」と語ったが、改憲派議員一人ひとりが安倍氏の遺志を継承して憲法改正に気迫を持って臨み、日本の未来の礎を築くための決意を新たにしてもらいたい。

人口減少による安全保障体制の弱体化や労働力の深刻な不足などを招く少子化問題の解決も待ったなしの国家的課題だ。物価高対策も急がねばならない。補正予算編成を伴う巨額の経済対策の実施を求める声が強まろう。即効性のある経済・財政政策を求めたい。

一方、野党第1党の立憲民主党は苦戦を強いられた。前回と違い、支持団体・連合の支援を十分に受けられず、共産党との野党共闘も限定的だった。反転攻勢の足掛かりは得られなかった。泉健太代表は「支持回復強化が最重要」と言うものの、立党の理念が薄く、与党批判に終始しているようでは国民の支持は広がらない。泉代表の交代論が出るのは避けられまい。

逆に、維新は議席を伸ばした。昨年の衆院選での躍進に続き、国会での勢力を拡大している。与党に対する是々非々の姿勢の明確化が奏功したものだが、全国政党化という目標には課題が残った。

「聞く力」を弱めるな

野党の力量が不足してきたのは確かだ。しかし「聞く力」を弱めてはいけない。岸田首相は慣れからくる油断も禁物であることを肝に銘じて政権運営に当たるべきである。