【社説】英首相辞意表明 刷新果たし保守党政権継続を

7日、ロンドンの官邸前で声明を発表し、辞意を表明するジョンソン英首相(AFP時事)

英国のジョンソン首相が与党保守党の党首を辞任し、首相在職は次期党首が選出されるまでとする意向を表明した。強力な指導力で英国の欧州連合(EU)離脱を進め、ロシアのウクライナ軍事侵攻に対しては厳しくロシアを非難し、積極的なウクライナ支援を実行してきたが、政権内の不祥事が重なり残念な結果になった。

 閣僚ら数十人が辞任

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、外出禁止、会食禁止、各種営業禁止など国民が厳しい感染対策の都市封鎖規制下にあったにもかかわらず、首相官邸や政府官舎内で首相ら要人がパーティーを開いていた問題が発覚し、昨年来ジョンソン氏の支持率は低迷して30%を割っていた。

規制違反を追及する野党や世論の批判のみならず、保守党は6月にジョンソン氏の信任投票を行い、不信任票は4割に上った。しかし、続投の姿勢を貫いてきた豪胆なジョンソン氏も、側近閣僚の抗議の辞任が他の閣僚、副大臣、政務官ら数十人に広がり、退陣の潮時とみたようだ。

ただ、ジョンソン氏が果たしてきた国際的な役割は、ウクライナでの戦争事態によるロシアの脅威増大や、超大国化する共産主義独裁体制の中国の覇権主義に対峙(たいじ)する上で重要性を帯びていた。

EU離脱交渉で行き詰まったメイ前首相の後を受けて2019年にジョンソン氏は首相に就任すると、強い姿勢で離脱交渉に臨んで下院選挙で圧勝してEU離脱を確実にした。一方で、外交、国防、経済の戦略の重心をインド太平洋に置き、米国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、わが国との連携を強化する国策針路を提示している。

自由と民主主義の価値観の遵守(じゅんしゅ)を基本に据えた戦略であり、その象徴として最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を極東に派遣し、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設に加わった。わが国と米豪印の枠組み「クアッド」との連携による対中抑止力の強力なカードだ。

またジョンソン氏は、ロシア軍の攻撃を受けるウクライナに対して強力な支援を行っており、ゼレンスキー大統領が最も信頼を寄せる首脳の一人だった。北大西洋条約機構(NATO)の北欧フィンランド、スウェーデンの加盟申請にもいち早く支持を表明し、国際秩序を力で破壊するロシアに毅然(きぜん)と対抗する姿勢を示してきた。

だが、「信なくば立たず」の言葉は民主主義政治の基本と言えよう。この論語の一節は、政治を行う上で最も重要なのは信頼であると説いている。パーティー問題のほか、政権要人の性的スキャンダルなど不祥事が相次いでおり、保守党政権は刷新を果たして後継を選出しなければならない。

 民主主義の強さ証明せよ

世論を重んじる民主主義制度の国は、時に分裂気味で弱く見え、中露のような独裁的な国に付け入れられることもある。だが、民に変える力があり、刷新と改革を伴えば強さと進歩があると証明すべきだ。