
ネタニヤフ前首相を退陣させることを目標に結集したベネット首相率いる8政党による連立政権は、昨年6月に発足してから、わずか1年で解散した。今年11月1日に、ここ3年半で5度目となるイスラエル総選挙が行われる。最大野党の右派リクードを率いるネタニヤフ氏の政権復活なるかが注目されている。(エルサレム・森田貴裕)
第24期クネセト(イスラエル国会、定数120)が6月30日に解散し、ベネット首相は辞任した。次の総選挙の後に新政権が誕生するまでの間、政権発足時の合意に基づき、ラピド外相が暫定首相を務める。ベネット氏は、次の選挙には出馬しないことを表明している。
イスラエルでは完全比例代表制で総選挙が行われる。1948年の建国以来、単独政党が過半数を獲得したことはなく、常に連立政権が組まれてきた。
昨年3月の総選挙では、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードが第1党になったが、連立交渉に失敗。「反ネタニヤフ」で一致した極右、右派、左派、中道派、アラブ系イスラム政党などの政策が異なる8政党が参加する連立政権が昨年6月に発足した。12年連続で首相を務め、在任期間が歴代最長の通算15年に及んだネタニヤフ氏は、汚職疑惑への批判の中で退陣し、極右政党ヤミナ党首のベネット氏が新首相となった。
連立政権内では右派議員と左派議員の間で意見が対立し、今年4月、ベネット氏のヤミナから離反する議員が出た。その後も離反者が相次ぎ、連立政権は議会で過半数を失い、重要な法案も通らなかった。特に6月6日のクネセトで、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者の保護のための法案が通らなかったことが、解散を決定付けた。連立政権内の一部のアラブ議員がこの法案を支持することを拒否した。さらに、この法案を強く支持しているはずのネタニヤフ氏ら右派や極右野党が、アラブ系政党と連立を組むベネット氏の連立政権自体を受け入れることができず、反対票を投じたのだ。
イスラエルは、1967年の第3次中東戦争(6日戦争)でヨルダン川西岸などを占領して以来、ユダヤ人入植者の保護のために別個の法制度を作り、イスラエルの刑法、所得税や健康保険など特定の主要な民法を彼らに適用している。この法律は、5年ごとに更新する必要がある。6月末の期限切れになる前に議会を解散したことで、一時的に入植者の保護のための法律は更新されることになった。占領下のヨルダン川西岸には、約50万人のユダヤ人入植者が住む。入植活動を積極的に進めてきたベネット氏にとって、彼らの生活を保障する法律が失効することはあってはならないことだ。
イスラエルの刑法および国際法の専門家で元軍事裁判官のエマニュエル・グロス氏によると、定期的に更新されている入植者の法律が失効した場合は、ヨルダン川西岸に住む約250万人のパレスチナ人と同様に、入植者も自動的にイスラエル軍の支配下に置かれることになるという。
入植者が軍事法廷で裁かれる可能性も出てくる。政権発足からわずか1年で解散することについて、ベネット氏は6月20日の記者会見で「人生で最も厳しい決断だったが、イスラエルを守るための正しい決断だ」と述べた。
イスラエルのメディアによると、次の総選挙の世論調査では、ネタニヤフ氏のリクードがトップに立ち、連立する右派政党ブロックが63議席を示した。これには、ネタニヤフ氏と協力することを仮定したヤミナの4議席が含まれている。一方、ラピド氏の中道左派ブロックは、メレツ党がクネセトの議席を獲得するために必要なしきい値3・25%を下回った。これで他の政党が獲得する議席数の結果が変わり、ネタニヤフ氏の右派政党ブロックが有利となった。
ネタニヤフ氏の汚職をめぐる裁判が行われている中、刑事告発を受けた者が首相職を務めることを禁じる法案が、6月下旬に連立議員によって提出されたが進展しなかった。左派による魔女狩りにすぎないと主張するネタニヤフ氏が再び政権を握る可能性がある。



