【社説】KDDI障害 混乱長引かせた責任は重い

オンライン記者会見で、大規模通信障害が全面復旧したことを説明するKDDIの吉村和幸専務(右)=午後

KDDIの大規模通信障害は発生から復旧確認まで86時間を費やし、携帯電話の通話やデータ通信サービスにとどまらず、自動車や運輸、物流、金融、電力など広く産業界に混乱が波及した。

このような事態を招いた責任は極めて重い。KDDIは再発防止を徹底すべきだ。

3915万回線に影響

障害は2日午前1時35分ごろに発生。設備交換時に生じた不具合をきっかけに通信機器へアクセスが集中し、負荷低減のため通信制限をかけたことで最大3915万回線がつながりにくくなった。KDDIの「au」や「UQモバイル」「povo(ポヴォ)」のほか、同社の回線を利用する楽天モバイルや格安スマートフォン会社のサービスなどにも影響が及んだ。

このため、生活に欠かせないインフラで混乱が広がった。宅配大手ヤマト運輸では宅配便の配送状況の更新ができなくなった。トヨタ自動車やマツダは、インターネットに常時接続する「つながる車」の機能に支障が生じた。利用が広がるキャッシュレス決済も、一部でクレジットカード端末が使えなくなるなどの影響が出た。

特に110番や119番などの緊急通報ができなくなったことは、生命に関わる事態となりかねず、大きな問題だ。KDDIはもちろん、他の携帯各社も責任の重さを自覚しなければならない。

KDDIが復旧作業を終えたと公表した後も通話がつながりにくい状況が続くなど、情報提供の在り方にも課題が残った。復旧確認までに86時間かかったのも、過去の障害と比べて格段に長い。混乱を長引かせた原因を徹底究明して再発防止につなげるとともに、顧客第一の視点に立って補償も含め誠実に対応する必要がある。

今回の障害について、総務省は電気通信事業法上の「重大な事故」に該当するとみており、行政指導などに踏み切るとみられている。ただNTTドコモが昨年10月、延べ1290万人がつながりにくくなる通信障害を起こして行政指導を受けたにもかかわらず、その教訓が十分生かされずに今回の障害を招いたことで、総務省の監督責任も問われよう。

今後、高速大容量規格「5G」が普及すれば、これまで以上に生活がネットにつながることになる。実用化が進む自動運転などで通信が途絶えれば、人命に関わる事故に直結しかねない。携帯各社にとって、障害の発生を防ぐことはもちろん、万一発生した場合の影響を最小限に抑える対策を講じることは喫緊の課題である。

通信網の融通は不可避

総務省は2011年、東日本大震災を受け、緊急時の通信確保策として携帯各社が通信網を融通し合う「ローミング」の導入を検討したが、技術面で難しく合意できなかった。

ただ携帯電話は情報社会を支える重要インフラであり、公共性は極めて高い。携帯各社の連携強化は避けられないのではないか。各社は今回の障害から得られる教訓を共有するとともに、通信網の融通についても早急に対応すべきだ。