米海軍が主催する多国間訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」が8月4日まで米ハワイ沖などで行われている。
東・南シナ海で覇権主義的な動きを強めるだけでなく、南太平洋などでも海洋進出を図る中国の脅威への共同対処能力を高めるべきだ。
台湾の招待は見送り
リムパックは1971年からほぼ2年おきに開かれる世界最大規模の多国間訓練だ。今回は「クアッド」構成国の日米とオーストラリア、インドを含め26カ国から38隻の艦船、4隻の潜水艦、170機以上の航空機、約2万5000人が参加。日本からは海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」などが派遣される。
対中国を念頭に主要参加国の最先端能力の統合を進めることを目指す。無人艇など米海軍の最新のシステムを活用するほか、サイバー戦や電子戦を想定した共同演習を行うという。米国にとっては、世界から海軍を結集する能力を誇示し、同盟国、友好国との演習で優位性を示す機会となろう。
中国は沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、中国海警船が尖閣沖で領海侵入を繰り返している。東シナ海の日中中間線付近では日本の抗議を無視してガス田を開発している。フィリピンなどと領有権を争う南シナ海では滑走路建設やミサイル配備などの軍事拠点化を進めている。いずれも力による一方的な現状変更の試みであり、容認し難い動きである。
さらに中国は、太平洋諸国との関係強化も図っている。今年4月にはソロモンと安全保障協定を結び、米国や豪州などの警戒を誘った。南太平洋への進出には、米国の影響力を弱めて軍事バランスを変え、豪州を封じ込めて台湾侵攻の環境を整えるという狙いがある。
その意味で残念なのは、今回のリムパックに台湾が招待されなかったことだ。米上下両院は昨年12月に可決した国防権限法で招待するよう求めたが、見送られた。
中国への配慮だとすれば、とんでもない誤りだ。中国に足元を見られてはいけない。ロシアによるウクライナ侵略が、台湾統一を「歴史的任務」と位置付ける中国の習近平政権に影響を与える恐れもある。台湾の防衛力向上には、定期的な共同訓練が欠かせない。バイデン米大統領は次回以降の台湾参加への道を開くべきだ。
日本としては「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、中国を牽制(けんせい)する国々を増やして連携することが急務だ。リムパック参加国との共同作戦能力を高めるとともに、信頼関係を一層強化する必要がある。
対北抑止力も高めよ
日米韓3カ国はリムパックに合わせ、8月に対北朝鮮を念頭に置いた弾道ミサイル探知・追尾訓練を実施する方針だ。核・ミサイル開発を進める北朝鮮は、今年に入って各種ミサイルを発射しており、対応強化は大きな課題である。
自由、民主主義、人権などの価値観を共有する日米韓が連携し、北朝鮮の脅威増大に対処することは、中国に対する牽制にもなろう。



