独カトリック教会 脱会者が急増 聖職者の性犯罪 最大の理由

バチカンの列聖式に参列する前ローマ教皇ベネディクト16世=2014年4月27日(AFP=時事)

教会指導部への不信も

独ローマ・カトリック教会司教会議(DBK)が6月27日、ボンで公表した「2021年教会統計」によると、35万9338人の信者が昨年、教会から脱会した。20年比で約62%の大幅増だ。脱会の最大の理由は、聖職者の性犯罪問題とそれを隠蔽(いんぺい)してきた教会指導部への不信だ。(ウィーン・小川敏)

20年の脱会者は22万1390人で約36万人の増加。DBKの広報官、マティアス・コップ氏は「ネガティブな新記録だ」と指摘。DBKのゲオルク・べッツィング議長は、「ドイツの教会(27司教区から構成)が、深刻な危機にあることを端的に物語っている」と述べた。

ドイツのカトリック信者総数は2164万5875人で、人口全体の26%を占める。プロテスタント信者数は約1972万人で23・5%。新旧両教会の信者総数が人口の50%を初めて下回った。

教会統計によると、小教区の数は9858から9790に減少した。神父数は1万313人(20年1万2565人)、そのうち6215人は教区神父(20年6303人)。いずれも前年比で縮小してきている。礼拝参加率は昨年4・3%で前年の5・9%から減少した。

脱退の動機はさまざまだ。これまで熱心に教会に通っていた信者が教会に足を向けなくなったケースが増えている。正式に脱会していない潜在的な脱会候補者が多いともいわれ、実情は統計に出ているより深刻だ。

脱会者急増の主因は、聖職者の未成年者への性的虐待問題と教会側の対応ミスだ。

特に、ケルン大司教内の聖職者の性犯罪、それに対応すべき最高指導者ライナー・ベルキ大司教(枢機卿)への批判が絶えない。実際、ケルン大司教区だけで昨年4万772人の信者が脱会した。前年は1万7281人だから2倍強、増加したことになる。

ケルン大司教区で発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件の調査報告書が昨年3月18日、発表された。

騒動の元は、ベルキ大司教が17年に調査報告書の公表を避けたことだ。同大司教の辞任要求が起き、脱会者が急増した。それを受けて、同大司教は自身が任命した刑事弁護士ビヨルン・ゲルケ氏に調査を依頼し、改めて調査報告書(約800ページ)を公表したが、信者の教会指導部への不信は根深く、バチカンはベルキ大司教に一時休職を要請せざるを得なくなった。

それだけではない。昨年5月にはミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿がフランシスコ教皇宛てに大司教辞任申し出の書簡を送った。マルクス枢機卿はフランシスコ教皇の信頼を得ている枢機卿顧問会議の一員だ。12年から20年2月まで、独司教会議議長を務めた。

理由は、大司教区で過去に発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件に対して「指導者としてその責任を取りたい」というものだった(フランシスコ教皇は昨年6月10日、同枢機卿の辞任申し出を拒絶した)。

ところが、名誉教皇ベネディクト16世が教皇となる前、1977~81年末まで同大司教区の大司教を務めていたことから、責任追及の矛先がベネディクト16世に向けられ、ドイツ教会は大混乱。今年1月20日公表された調査報告書でベネディクト16世は、「大司教時代、少なくとも4件、聖職者の性犯罪を知りながら適切に指導しなかった」と批判されている。ベネディクト16世は6月、聖職者の性的虐待事件の犠牲者から責任を追及され、提訴された。

イエズス会のアンスガー・ビーデンハウス氏は南ドイツ新聞とのインタビューで、聖職者の性犯罪、それを隠蔽してきた教会指導者に対し、「私たちの教会の何かが壊れている」と述べている。「このような教会に所属することは道徳的にも間違っているのではないか」といった罪悪感を抱く敬虔な信者が増えてきているという。

預言者モーセが60万人のイスラエル人を引き連れ、神が約束したカナンに向かって「出エジプト」したように、敬虔なキリスト者は教会という組織から出て、神を探し始めている。ただ、どこへ向かえばいいのか、はっきりとしたビジョンを提示してくれるモーセのような指導者はいない。現代のキリスト者は、砂漠を彷徨(ほうこう)しながら羊飼いを探す「羊の群れ」と言えよう。