【社説】香港返還25年 強権が消した自由都市の灯

香港返還25周年を記念して掲げられた中国と香港の旗=25日、香港・香港島(時事)

四半世紀前の香港返還時、国際社会は「中国の香港化」に期待を寄せた。自由と民主主義が根付いた香港の活力が、北京の強権統治に風穴を開けてくれるものと思われたからだ。

しかし、結果は「香港の中国化」でしかないという皮肉なものになった。

「一国二制度」根絶やしに

2年前の6月、香港統制を強化する「香港国家安全維持法」(国安法)が施行された。「一国二制度の貫徹の堅持」や「高度自治方針」を謳(うた)っているが、国家分裂罪や国家政権転覆罪などで中国共産党批判を封印する“治安維持法”でしかない。国安法に基づき、中国は治安維持の出先機関「国家安全維持公署」を香港に設置して合法的に執行行為を行うことになった。

香港は1997年7月1日、英国から中国に返還される際、外交・防衛を除く分野での高度な自治を保障する「一国二制度」を半世紀維持すると国際公約した。だが半世紀どころか四半世紀後に、司法の独立などを柱とした法治システムは根こそぎ絶やされ、港人治港の一国二制度は一国一制度となった。

警察官僚出身の武断派、李家超(りかちょう)氏が共産党政権の後押しを受けて香港行政長官に選ばれたのも、強権統治のために使い勝手がいいと判断されたからに他ならない。治安対策のリーダーだった李氏は、民主活動家の一斉逮捕だけでなく、共産党政権に歯に衣(きぬ)着せぬ批判の紙つぶてを投げ続けた香港紙・蘋果日報(リンゴ日報)を銀行口座の凍結などの強権を行使し廃刊に追い込んだ。蘋果日報創業者の黎智英氏は未(いま)だ投獄されたままだ。

何より懸念されるのは、報奨金を撒(ま)き餌に民主派勢力をあぶり出す密告社会の出現だ。これでは地域共同体の活力を引き出すどころか、社会は分断され香港版文革となりかねない。

西側諸国からの強権政治との批判に対し、中国は中国型の民主主義があると言い募る。しかし「中国式民主主義」とは共産党の一党支配に他ならない。

民主主義は国民の基本的人権が保障され、法の支配や権力の分立などの要件を伴う。何より言論・集会の自由があってこそ、民主主義は成立する。個々人の信条や意見が自由に表明できる社会でないと、上意下達だけの閉塞(へいそく)社会に堕しやすい。言論機関は「共産党の舌」との位置付けでしかない中国において、言論・集会の自由は遠い。

往年の香港言論機関は、秘密主義の北京の門をこじ開け、共産党政権下での中国の内実の一端を中国国民を含め世界に伝えた。「大躍進」政策の悲惨な実態を世界が知ったのも、香港に逃げた中国国民を通してだった。

失われた「百万㌦の夜景」

ビクトリアピークから眺める香港が「百万㌦の夜景」と言われたのは、庶民の家屋から出る一つ一つの蛍光灯の光の集合体が、ダイヤモンドのように小さいながらも鋭い輝きを放っていたからだ。

だが今は、高層ビル群の光とギラギラしたネオンばかりが目立つ。光量はボリュームアップしているが、夜市の玩具売り場のようだ。人々の魂の光を消している香港を象徴する「1㌣の夜景」になることを危惧する。