露軍はウクライナ制圧貫徹 プーチン氏 G7への「返答」

26日、ミサイル攻撃を受けたウクライナの首都キーウ(キエフ)の集合住宅(AFP時事)

ドイツ南部バイエルン州のエルマウで26日から3日間の日程で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開催された。主要テーマはロシアのウクライナ軍事侵攻だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオでG7サミットに参加し、ウクライナへの武器供給、経済支援を要請する一方、ロシアにさらに厳しい制裁を求めた。

一方、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナを支援するG7を含む西側に対して黙認はしていない。ちゃんと答えている。

具体的には、①核搭載可能な弾道ミサイルのベラルーシへの供給②キーウ空爆再開③ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングモール空爆だ。

ロシアのプーチン大統領は25日、サンクトペテルブルクでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、核弾頭搭載可能な弾道ミサイル「イスカンデルM」をベラルーシに数カ月以内に供与すると表明した。プーチン氏は必要ならば核兵器を使用する可能性を示唆してきた。

問題は、プーチン氏はベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領に核搭載可能な弾道ミサイルを本当に供給する考えがあるのかだ。ずばり言って、ない。プーチン氏の狙いは、ウクライナに重火器を供給する欧米に警告することだ。政変が起きていつ自国に向かうか分からない大量破壊兵器を同盟国に提供する国はない。例えば、日本は米軍の核の傘下にあるが、その核は米軍の管理下にある。

次にロシア軍は26日、ウクライナ首都キーウを空爆した。戦線を広げることは現在のロシア軍にとっては厳しいが、キーウを制圧しなければ、ウクライナをロシア側に屈服させたことにはならない。東部をほぼ掌握した現在、次はキーウだというシグナルを欧米側に送ったことになる。G7の首脳にそのシグナルを送ることで、ロシア側の戦争への決意を表明したわけだ。

さらに、ウクライナ中部クレメンチュクの大型商業施設が27日、ロシア軍のミサイル攻撃で大破して炎上した。現地メディアによると、少なくとも20人が死亡した。ゼレンスキー大統領はロシア軍による「計算されたテロ攻撃」と非難した。民間施設へのミサイル攻撃は欧米側から「ロシア軍の戦争犯罪」として激しい批判の声が上がった。

プーチン氏の狙いは欧米諸国に向けられていたというより、ウクライナ国民に向けられていた。すなわち、ウクライナ国民の国防への士気を崩し、長期化する戦争への国民の怒りと不満を与える狙いだ。そのために民間人が集まるショッピングモールを空爆したのだ。狙いは可能な限り多くの民間人を殺害することにあったはずだ。

以上はG7サミット開催を意識して計画的に行われたものだ。最大級の野蛮で非人道的な民間施設攻撃を行うことで、牧歌的な環境のエルマウ城で開催されたG7首脳会議に対し、プーチン氏はウクライナへの目標を達成するまでロシア軍の撤退はあり得ないという痛烈なメッセージを送ったことになる。(ウィーン・小川 敏)