イラン、イスラエルの関与主張 革命防衛隊大佐暗殺

イスラエルは報復を警戒 イランは濃縮ウラン確保、核兵器製造へ

5月23日、テヘランで声明を読み上げるイランのライシ大統領(イラン大統領府提供)(AFP時事)

イランの首都テヘランで5月、イラン革命防衛隊(IRGC)の大佐が自宅前で何者かに射殺された。イランは、イスラエルが関与しているとして報復を宣言。イスラエルはイランによるテロ攻撃を警戒し、世界中の大使館と領事館の警備警戒レベルを上げ、トルコに滞在するイスラエル人に帰国するよう勧告した。(エルサレム・森田貴裕)

イランの海外における軍事作戦に当たるIRGCの精鋭部隊「コッズ部隊」のハッサン・サイアド・ホダイ大佐が5月22日、テヘラン市内の自宅前で車の中にいたところ、オートバイ2台に分乗した何者かから銃撃を受け死亡した。イランはイスラエルの関与を主張。ライシ大統領は23日「必ず報復する」と述べた。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、ホダイ大佐暗殺事件について、イスラエルが米国に通知していたと報じている。

イスラエルの国家安全保障評議会は30日、イランがトルコでテロ攻撃を計画しているとして、不要不急のトルコへの渡航を避けるよう勧告。イスラエル治安当局は、トルコに滞在するイスラエル人に直接電話し、帰国するよう求めた。

イスラエルの対外情報機関モサドはこれまで世界中で、イスラエルの指導者や実業家らを標的としたイランの攻撃を阻止してきた。報道によると、イランは現在、トルコに滞在するイスラエル人に狙いを広げており、イスラエル人観光客が標的となる恐れがあるという。

2020年11月、イランの核開発計画で中心的役割を果たした著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏がテヘラン近郊で暗殺された際にも、イスラエルの関与が指摘され、両国の間で緊張が高まった。

イスラエルのライヒマン大学国際テロ対策研究所の上級研究員であるエリ・カルモン博士は、中東ニュースサイト「メディアライン」で、イランの秘密軍事タスクフォース「840号部隊」の副司令官だったとされるホダイ大佐は、12年2月のインド首都ニューデリーでのイスラエル大使館の車両を狙った爆弾攻撃で外交官の妻が重傷を負った事件を含む、多数の攻撃に関与したと説明した。イランは840号部隊の存在を正式に認めたことはない。イスラエル当局は過去10年間に、モサドからの情報によって、この部隊による多数の攻撃を阻止してきた。特にここ2年間では、キプロスやコロンビアなどでの攻撃が阻止されたという。

カルモン博士によれば、今年2月、トルコの最大都市イスタンブールでトルコの情報機関が、ユダヤ人実業家を暗殺するというイランの計画を阻止し、容疑者8人を逮捕した。これは、イランの核科学者ファクリザデ氏殺害に対する報復だという。また、4月にもIRGCメンバーがイスタンブールの領事館でイスラエル人外交官を暗殺する計画を立てていたが、モサドの諜報(ちょうほう)機関によって阻止されたという。

イスラエルのベネット首相は今月3日、エルサレムを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長と会談し、国際社会を欺いて核開発を行うイランに対する強い懸念を表明した。

イランの核開発に関するIAEAの最新報告書によると、現在、イランの濃縮度20%のウランの貯蔵量は推定238・4㌔で、前回3月の報告時から56・3㌔増加。濃縮度60%のウランも9・9㌔増の43・1㌔となっており、核兵器を製造するために十分な量を確保したもようだ。核兵器への転用が可能な濃縮度は90%前後とされている。

ベネット氏は、「イランの核開発は外交的に解決することが好ましいが、国際社会が一定の期間内にイランの核開発を停止できない場合、イスラエルは自衛のため独自行動も辞さない」と述べている。

一方イランは、核開発計画に携わる科学者や軍人を標的とした暗殺事件にイスラエルが関与しているとして非難している。イランによるイスラエル人を狙った報復攻撃への懸念が高まっている。