比・マルコス次期大統領、30日就任 現政権色の強い閣僚起用

メディアと溝、報道の自由に懸念も

フィリピンのフェルディナンド・マルコス次期大統領=2021年12月、マニラ近郊バコール(EPA時事)

フィリピンの上下両院は5月25日、大統領選の公式集計を終えフェルディナンド・マルコス元上院議員の当選を正式に宣言した。6月30日に正式に就任する見通しで、マルコス氏はすでに主要閣僚の任命を行うなど、新政権の輪郭が徐々に明らかになっている。(マニラ・福島純一)

マルコス氏は副大統領に当選したドゥテルテ大統領の長女であるサラ・ドゥテルテ氏を教育省長官に任命した。そして新政権の大きな課題の一つとなっているコロナ禍で膨らんだ約13兆ペソ(約31兆円)の債務残高の対策を担う財務省長官に、ドゥテルテ政権で中央銀行総裁を務めたベンジャミン・ジョクノ氏を起用する方針を示した。

ほかに現観光省長官のベルナデッド・プヤット氏が中央銀行の副総裁に任命されるなど、ドゥテルテ政権の閣僚の起用が多いのも特徴となっている。

このような人事はドゥテルテ大統領の政策を継続すると表明するマルコス氏の意思の表れとも取れるが、かつて故マルコス元大統領が行った独裁政権のように縁故主義が横行するとの懸念も出始めている。

マルコス氏はドゥテルテ大統領に、新政権で麻薬対策に関連するポストを用意する準備があると打診したが、ドゥテルテ氏はこれを断っている。

フィリピンのサラ・ドゥテルテ次期大統領=2017年5月、南部ダバオ(EPA時事)

中国との関係をめぐっては、ドゥテルテ政権の親中方針を引き継ぐ方針を示す一方で、南シナ海における領有権問題に関しては「われわれは1ミリたりとも領有権が踏みにじられることを容認しない」と述べ、中国の主張を無効とした2016年のハーグ仲裁裁判所の判決を支持することを表明。同判決を「紙くず」と表現したドゥテルテ氏とは違う姿勢を示した。

コロナ禍に伴う深刻な財政問題を抱えつつも、マルコス氏はドゥテルテ政権が進めてきた「ビルド・ビルド・ビルド」と呼ばれるインフラ開発計画を継続する方針を示している。これはフィリピン各地に中国資本によって建てられた道路や橋がさらに増えることを意味し、さらに中国に傾倒する可能性もありそうだ。

選挙期間中に公開討論を避けるなど、メディアと距離を置く姿勢は当選後も変わっていない。当選確定後に行われた最初のインタビューもマルコス氏が指名した三つのメディアに限定されるなど、マスコミ関係者からは早くも報道の自由に関する懸念の声が出始めている。その一方でマルコス氏はスポークスマンを置かずに自身が直接メディアと向き合う方針も示している。

政権運営についてはまだ未知数だが、マルコス氏は就任直後から歴代大統領で最高の支持率を維持してきたドゥテルテ大統領だけでなく、父親の故マルコス元大統領と比較されることは間違いない。特にマルコス陣営は選挙期間中に独裁時代の負の遺産を完全に否定し、フィリピンが経済的に周辺諸国より豊かだった時代のノスタルジーを強調。その復興を掲げてきた。

コロナ禍のダメージが色濃く残る中で行われた選挙。有権者の期待は高いだけに、もし失望に転じればその反動は大きい。この大きな期待とプレッシャーの中、6年間の政権を維持できるのかに注目が集まる。

フィリピンでは故マルコス元大統領やエストラダ元大統領のように、民衆蜂起により政権半ばで辞任を強いられるケースが少なくない。

民衆の希望が失望に変われば、マルコス氏も父親と同じ道を歩むことがあり得る。国民の間では、マルコス氏は任期途中で退任し、副大統領のサラ氏が大統領に就任する流れがすでに織り込み済み、との噂(うわさ)がまことしやかにささやかれている。