政治部長 武田 滋樹
ロシアの軍事侵攻により勃発したウクライナ危機は既に3カ月を過ぎて世界に大きな波紋を広げている。対露制裁による経済的な打撃や損失だけでなく、国際的な安全保障環境も地殻変動を起こしている。これまでの日本の安保論議の枠組みを根底から覆す破壊力を持っているからだ。
「恒久の平和を念願し」侵略戦争を放棄した平和国家であっても、専制的な主権者の心一つで無惨に主権、領土領海領空、国民が蹂躙(じゅうりん)されること。侵略国が核を持つ大国である場合、「平和を愛する諸国民の公正と信義」の象徴である国際連合が機能不全に陥ること。
さらに、「陸海空軍その他の戦力」はもちろん、軍事的な支援も厭(いと)わない同盟国なくして国は守れないこと。付け加えるなら、国民の愛国心や犠牲、責任感なくして危機の国は維持できないこと―など、国際社会の冷然たる現実が憲法(前文や9条)が唱える安保観の危うさ(虚構)を浮き彫りにした。
このような含蓄に一番敏感に反応しているのが共産党だ。ロシアの侵攻開始直後から、「ウクライナ侵略を断固糾弾」「侵略を許すな」と大々的なキャンペーンと情宣活動を展開。その中で、「旧ソ連時代から覇権主義許さず」とロシアと無関係であることを強調する一方で、9条擁護の論陣を張っている。
志位和夫委員長はまず「プーチン氏のようなリーダーが選ばれても、他国への侵略ができないようにするための条項が、憲法9条なのです」と述べたが、「これまで9条で他国から侵略されないと仰(おっしゃ)ってたのでは」と突っ込まれると、今度は、相手が「軍事、核兵器、力の論理」で来たときに、同じように対抗すれば「『軍事対軍事』の悪循環」になるという論理で、「憲法9条を生かした外交戦略こそ必要」と主張した。
それでも、侵略されたら9条を守って対抗できるのかという声が高まると、ついに「急迫不正の主権侵害が起こった場合は、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守り抜く」と言い放った。これには、憲法違反とする自衛隊を活用するという矛盾を指摘する「ご都合主義」などの批判が殺到。ついに参院選に向けて、安保冊子を今月27日に出版することになった。
志位氏はこれを発表した場で、「党としては『自衛隊=違憲』論を貫き、憲法9条と自衛隊との矛盾を、憲法9条の完全実施に向けて、国民合意で一歩一歩解消していく」と表明する一方、自衛隊を活用するのは共産党でなく「党が参加する民主的政権」であり、「民主的政権としての憲法判断が『自衛隊=合憲』である以上、その政権が自衛隊を活用することに、憲法上、何の矛盾もありません」と苦しい答弁に終始した。
ウクライナ危機は共産党の統一戦線戦術(野党連合政権構想)の求心点となってきた「憲法9条の理想」まで崩壊させかねない。共産党が動揺するのは当然だが、国家の独立と国民の安寧を守るための現実的な憲法論議が活性化する契機にしてもらいたい。



