
岸田文雄首相は欧州連合(EU)のミシェル大統領、フォンデアライエン欧州委員長との定期首脳協議を開いた。ロシアのウクライナ侵攻を「欧州にとどまらず、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす深刻な事態」と断じるとともに、覇権主義的な動きを強める中国を見据え「力による一方的な現状変更の試み」への懸念を共有した。
日本は自由、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値を共有するEUとの連携を強化し、中露を牽制(けんせい)する必要がある。
ウクライナ侵略を批判
首相は「EUと協調し強力な対露制裁を実施し、ウクライナ支援を強化している。断固とした決意で対応する」と表明。フォンデアライエン氏は共同記者発表で「ウクライナへの攻撃は大変野蛮だ」とロシアを厳しく批判した。
国際法に違反して他国を侵略し、民間人を虐殺するロシアに圧力をかけるのは当然である。ただ対露制裁の内情を見れば、EUは年内のロシア産石油禁輸を打ち出したものの加盟国に慎重論を抱え、日本も禁輸の時期や手法を明確にできずにいる。双方とも代替調達先の確保などでロシアに対する依存度を低下させ、制裁の実効性を高める必要がある。
一方、協議では中国を念頭に「急速かつ不透明な軍事力強化や軍事活動の活発化」に懸念を示し、東・南シナ海での一方的な現状変更の試みや経済的威圧に毅然(きぜん)と対応することを確認。台湾海峡の平和と安定、両岸問題の平和的解決が重要との認識で一致し、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況への懸念を表明した。
中国も国際法を無視して南シナ海の軍事拠点化を進め、東シナ海では沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張して中国海警船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。台湾統一を目指す習氏は、武力行使も辞さない構えを示している。
またウイグル族は収容施設などで拘束され、組織的に強制労働や虐待の被害を受けている。香港では行政長官選で中国政府の後押しを受けた李家超・前政務官のみが立候補して当選するなど、高度な自治を保障した「一国二制度」が骨抜きにされている。地域の安全を脅かす覇権主義的な動きや深刻な人権侵害を看過することはできない。
もっともEUは従来、中国の軍事的台頭に対する関心は薄かった。姿勢を変化させた背景には、ウクライナ危機を受け、中国がロシアを制裁回避や軍事的な形で支援しかねないとの懸念がある。フォンデアライエン氏は「プーチン大統領が習近平国家主席と交わした『限りない友情』を考えれば、世界秩序への挑戦を非常に深刻に受け止めるべきだ」などと権威主義的な中露への警戒感を訴えた。
クアッドとの連携強化も
EUは昨年9月、初の包括的なインド太平洋戦略をまとめ、日豪印などとの協力を通じ、人権保護やルールに基づく国際秩序維持の促進をうたった。日米豪印4カ国(クアッド)とEUとの連携強化も求められよう。
中露を挟む日本と欧州は、対中露の包囲網を形成して牽制を強める戦略を描くべきだ。



