話題の書『秋篠宮』の著者・江森氏に出版の経緯と動機をただした文春

笑顔で会場を見つめられる秋篠宮ご夫妻=ブラジル(2015年11月3日)

「直近の肉声」明かす

ジャーナリストの江森敬治氏が出した著書『秋篠宮』(小学館)が大騒ぎになっている。秋篠宮文仁殿下の父親として「愛する娘に幸せになって欲しい」という思いと、皇嗣(こうし)としての「責任の狭間で最後まで葛藤されていた」姿が明かされているからだ。

同書が5月15日に発刊されると、週刊誌各誌は一斉にこれを報じた。江森氏は元毎日新聞編集委員。この3月末に退職し4月からフリージャーナリストになり、早々に出版したわけだ。多くの紙数を割いている週刊文春(5月19日号)で見てみる。

まず本書が世に出たことについて、皇室ジャーナリストは同誌に、「次の天皇である秋篠宮さまの直近の肉声が明かされることは、非常に貴重であると同時に、今後様々な議論を呼ぶことになるでしょう」と語る。

皇位継承順位1位の皇嗣が「皇族の結婚」という公共性の高い寿話と「娘の結婚」という家族内輪の縁談との間で苦悩する様子を描いたのだから、話題にならないわけがない。文春は「今後、様々な議論を呼ぶ」との予測を載せたが、その議論とは何になるのかは具体的には指摘しておらず、論点をまとめるぐらいはしてほしかった。

3年半で37回“取材”

「江森氏は、本書のための取材を開始した一七年六月から脱稿する二二年一月末までの間に、秋篠宮邸および御仮寓所に合計三十七回、足を運んだという」

江森氏がなぜこうまで秋篠宮さまの“懐に入り込めた”のか。江森氏は同誌に対して、「妻が学習院大学で副手をしていた関係で紀子さまのお父さま、故・川嶋辰彦名誉教授と、当時まだ高校生だった紀子さまと顔見知りになり(略)、そうしたご縁があって、秋篠宮さまと紀子さまが(略)京都を訪問された際に、毎日新聞京都支局に勤務していた私は、妻とともに面会の機会を得ました。以来、三十一年間、秋篠宮さまに折に触れてお会いし、お話をうかがってきたのです」と説明している。

そういう縁があったとしても、いわば家庭の悩みまで話せる間柄になるというのは特殊だ。相手は皇族である。貴人との付き合いにはコツがある。当然ながら、まずは礼を守る、適度な距離を保つ、もちろん干渉しない、そしてむやみに関係を外部に明らかにしない、秘密は守る、等々。江森氏が秋篠宮さまとの関係を丁寧に大事に育ててきたことがうかがえる。

その一方で、秋篠宮さまが自らの内情、心の内の苦悩を江森氏に話そうと思われたのは、相手が記者であるという点も当然考慮されたはずだ。自分の思いが歪(ゆが)められず発信できると確信されたから3年半、37回も“取材”をお受けになった。

皇族であり、父親である秋篠宮さまの願いは複雑なことではない。単純に「説明して、周囲が納得、祝福できる結婚をしてほしい」というものだ。親ならば誰でも当然に持つ願いである。今回の結婚にはこれが足りなかった。

秋篠宮さまは「二人はそれでも結婚しますよ」という一方で、「先のことは、誰にも分かりませんからね」と背反する話を江森氏にしている。眞子さんの強い結婚への気持ちと、メディア等によってもみくちゃにされた縁談の行き先が見えない、という状況を言ったことなのだろう。

皇族方の結婚に影響

江森氏は最後、同誌に「平成の皇室は、上皇陛下と美智子さまが二人で築きあげられたものですが、令和の皇室は、天皇陛下と皇后さま、そして秋篠宮ご夫妻のチームプレイで作り上げていくことになる。私は、令和の皇室の中核を担うことになる秋篠宮さまの人となりや肉声を紹介し、彼の真情を通して、国民が新しい時代の皇室を考える契機となれば、という思いでこの本をまとめました」と語っている。

「極めて重い問いを突き付けている」と同誌は記事を結ぶ。よもや、相手側がライバル出版社を使って言い分をまき散らすようなことはないと信じたい。書かれるとすれば、“眞子さんの結婚”の第2章だ。それが皇室の結婚にさらに影響を与えることになる。

(岩崎 哲)