【社説】米ASEAN 中国念頭に連携を強めよ

米ワシントンで東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳らが招待された特別首脳会議に出席するバイデン米大統領(写真右)=5月13日、(UPI)

バイデン米大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳らをワシントンに招いて特別首脳会議を開催し、11月に予定される首脳会議で「包括的戦略パートナーシップ」に関係を格上げすることを宣言する共同声明を発表した。

インド太平洋地域での中国の影響力拡大を踏まえ、ASEANとの連携を強化する狙いだ。

覇権争いの「主戦場」

このパートナーシップについて、共同声明は「重要で中身のある、互恵的」な関係と明記。具体的内容は不明だが、同様の宣言は昨年11月に中国がASEANと共同で発表している。

ASEANは米中の覇権争いの「主戦場」である。バイデン政権は2月に「インド太平洋戦略」を発表し、ASEANとの関係強化を宣言。バイデン氏は今回の会議で「自由で開かれたインド太平洋地域」の重要性を訴え、「米ASEAN関係の新たな時代を始める」として長期的な関係構築に意欲を示した。

経済分野では、米側が今月下旬にも発足を表明する見通しの「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について、一部ASEAN加盟国に説明を行った。ただIPEFは、関税引き下げなどの米市場開放が含まれず、ASEAN側にメリットが少ないとされる。

バイデン政権は国内雇用を重視する内向き志向から抜け出せず、トランプ前政権が離脱した環太平洋連携協定(TPP)復帰にも慎重な姿勢だ。しかし、これでASEANとの関係を深められるか疑問が残る。

一方、ロシア軍が侵攻を続けるウクライナ情勢に関し、共同声明は即時停戦や各国の主権、領土の一体性を尊重することを訴えたものの、対露非難は抑制。南シナ海情勢では「紛争の平和的解決」を確認するにとどめ、露骨な中国批判も控えた。

ASEAN加盟国は歴史的、地理的な理由からそれぞれ異なる対米関係を持っている。米国には、こうした多様性を踏まえた連携強化の取り組みが求められよう。

とはいえ、中国の影響力拡大を看過することはできない。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」などを通じて投資や貿易を拡大し、存在感を高めている。

ASEAN加盟国の中には、中国と南シナ海の領有権争いをする国もある。中国は国際法に違反して南シナ海の軍事拠点化を進めている。強引な海洋進出でシーレーン(海上交通路)の安全が脅かされる恐れもある。

オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国独自の境界線「九段線」は国際法上の根拠がないなど、中国の南シナ海をめぐる主張を否定する判断を下した。だが、中国は判決を「紙くず」と呼んで無視している。米国はまず、南シナ海問題への関与を通じてASEANとの関係を強化すべきだ。

 米国は信頼醸成に努めよ

中国と比べ、米国の対ASEAN外交は出遅れが目立つ。今回の首脳会議について、インドネシアのジョコ大統領は「地域における米国のプレゼンス(存在感)復活の機運を高める首脳会議になることを望む」と注文を付けた。米国は信頼醸成に努める必要がある。