
岸田文雄首相がロンドンで英国のジョンソン首相と会談し、自衛隊と英軍の相互訪問時の法的基盤となる「円滑化協定(RAA)」締結に向けた大枠合意を確認した。
日英両国は、東・南シナ海で一方的な現状変更を試みる中国への危機感を共有している。防衛協力強化の意義は大きい。
円滑化協定の締結へ
RAAは、相手国に一時的に滞在する際の刑事手続きなどを定めたもので、共同演習や災害救助活動の円滑な実施につながるものだ。入国審査などを免除し、武器弾薬の持ち込み手続きを簡素化することが柱となる。米軍の長期滞在を前提とした日米地位協定と違って両国で対等に適用される。
日英両国は2017年1月、自衛隊と英軍が食料や燃料などを提供し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」を締結。さらに、昨年秋からRAA締結に向けた交渉を進めてきた。両首脳は早期署名に向け作業を加速することで一致した。
自衛隊と英軍はこれまで共同訓練を重ねてきた。昨年9月には、英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が日本に寄港した。英国は覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、インド太平洋への関与強化政策を打ち出している。
同月には、米国、オーストラリアとインド太平洋地域の平和と安全維持に向けた新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。日英両国の防衛協力強化が「自由で開かれたインド太平洋」の実現に寄与することを期待したい。
両国は共に米国の同盟国であり、日本は英国を「準同盟国」と位置付けている。日本が現在、RAAを締結しているのは、やはり「準同盟国」である豪州だけだ。
会談ではロシアの侵攻が続くウクライナ情勢をめぐって、先進7カ国(G7)が結束して対露制裁やウクライナ支援を継続することを確認。両首脳は「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分で、力による一方的な現状変更は世界のどこであれ認められない」との認識でも一致した。自由、基本的人権の尊重、法の支配などの普遍的価値を共有する日英両国そしてG7は、他国を侵略し、民間人を虐殺するロシアへの圧力を強め、国際法違反や人権侵害を容認しない姿勢を示すべきだ。
ジョンソン氏は、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後に英国が導入した福島県産などの食品の輸入規制を6月末までに解除する方針を伝えた。英国は、米国の離脱後に日本が主導する環太平洋連携協定(TPP)への参加を申請している。早期の加入を実現し、経済的な結び付きも強めたい。
岸田首相は東南アジア・欧州5カ国歴訪の最後に英国を訪れた。ユーラシア大陸の東と西に位置する日本と英国が連携を強化すれば、中露両国を挟む形となる。日英の戦略的関係の重要性は一層増すだろう。
さらなる関係深化を
英国では今年2月、エリザベス女王の即位70年を迎えた。日本の皇室と英王室には長い交流の歴史がある。日英関係をさらに深化させたい。



