
岸信夫防衛相が訪問先の米ワシントンでオースティン国防長官と会談した。
オースティン氏はロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な動きに触れた上で、米国による「核の傘」提供を含む拡大抑止の信頼性を強調した。信頼性向上には日米同盟と日本の自主防衛力の強化が求められる。
露の侵攻を厳しく非難
会談では、ロシアの侵攻を厳しく非難し、日米が連携してウクライナにできる限りの支援を行っていくことを確認した。ロシアはウクライナで民間人を虐殺し、南東部の要衝マリウポリでは地下に民間人が避難する製鉄所を攻撃している。国際法に違反するロシアの蛮行を決して容認せず、ウクライナを支えていくことは、自由、基本的人権の尊重、法の支配などの普遍的価値を共有する日米にとって当然の責務である。
また東・南シナ海で海洋進出を強める中国については、インド太平洋地域で力による一方的な現状変更を許さず、こうした動きを抑止するために連携を強化していくことで一致するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調した。
ウクライナ危機を受け、中国による台湾侵攻への懸念が高まっている。さらに中国は4月、南太平洋の島国ソロモン諸島と安全保障協定を締結した。中国によるソロモンの軍事拠点化が進めば、米国とオーストラリアが分断され、台湾情勢にも影響を与えかねない。
こうした中、日米防衛相が中国に対する抑止で一致し牽制(けんせい)したことの意義は大きい。日米は豪州やインドを加えた4カ国の枠組み「クアッド」の活用や、ニュージーランドとの連携強化などで、中国のソロモンへの軍事進出を防ぐ必要がある。
4日に弾道ミサイルを発射した北朝鮮をめぐっては、度重なる発射は深刻な脅威で断じて容認できないとして非難し、日米両国や韓国も加えた3カ国で緊密に連携していくことを確認した。韓国では間もなく、尹錫悦新政権が発足する。日米韓が一致して北朝鮮に対処するには、日韓関係の改善も急がれる。
ロシアのプーチン大統領はウクライナでの核兵器使用を示唆している。中国は核戦力を増強し、北朝鮮も核・ミサイル開発を継続するなど、日本周辺で核の脅威が高まっている。オースティン氏は、米国の核戦力を含む抑止力で日本を守る拡大抑止について米国の関与は揺るぎないと述べた。
ただウクライナを見ても分かるように、自分の力で自国を守ろうとしてこそ、米国をはじめとする国際社会の支援を得ることができる。日本は日米同盟での役割を拡大し、自主防衛力の増強に努めなければならない。
核抑止力高める検討を
岸防衛相は会談で、年末の国家安全保障戦略改定に向け、弾道ミサイルに対処する「反撃能力」の保有や防衛費増額を求める自民党の提言も踏まえ、防衛力を抜本的に強化する考えを伝えた。核抑止力についても、米国の核兵器を受け入れ国が共同運用する「ニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)」や、核を搭載した原子力潜水艦の寄港容認などを検討すべきだ。



