他の自治体の先進例として期待

福島県南相馬市(市長:門馬和夫)は事業構想大学院大学(本部・東京都港区、学長:田中里沙)と地域経済の活性化を目的とする「福島県南相馬市の活性化を目的とした『地方創生及び人材育成の推進に係る連携に関する協定書』」を3月に締結。同市鹿島区の地域活性化に向けた事業を立案できる人材を5月から育成する。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災後、課題を解決して魅力ある事業を生み出す人材が求められている中、今回の試みが成果を挙げ、他の自治体の先進例となることが期待されている。(市原幸彦)
講座で市場調査・企画立案など学び地域資源の活用策を探る
同事業は、事業構想修士課程のカリキュラムのエッセンスを生かした1年間にわたる全24回の講座で、市場調査や企画立案、収益分析について学び、地域資源の活用策を探るというもの。同大の協力により、各界で活躍する講師が講座を担当。鹿島区役所の職員をはじめ地元企業や団体などに所属する10人程度が研究員として参加する。大学院付属研究所の研究員の資格が付与され、プロジェクト研究終了後も、それぞれの企業・団体において、大学院の知やネットワーク、施設を活用できる。研究参加費は無料。
具体的なテーマは「常磐自動車道の南相馬鹿島サービスエリア(SA)・下りのポテンシャル、多様な地域資源を活用した事業構想の構築」で、さまざまな事例の検討を通じて事業の発想力を拡張していく。市はこれを土台に令和5年度に基本構想を策定し、6年度に本格的事業に着手する計画だ。
南相馬市は太平洋に面し、毎年7月下旬に行われる相馬野馬追(そうまのまおい)(重要無形民俗文化財)が有名だ。「2022年版住みたい田舎ベストランキング」(宝島社)では東北エリアで上位となるなど、さまざまな分野でチャレンジを続けている。特に「ロボットのまち南相馬」の実現を目指し、福島ロボットテストフィールドを核としてロボット産業を中心とした新産業創出と人材誘導に取り組んでいる。令和2年3月には、ロボットの性能評価や操縦訓練等ができる世界に類を見ない施設である福島ロボットテストフィールドが開所した。
また、「100年のまちづくり~家族や友人とともに暮らし続けるために~」を政策目標とし、教育・子育てを大きな政策の柱の一つに据えている。幼稚園・保育園の無償化、18歳以下の医療費無料化を実現し、令和4年度から小中学校の給食費を無償化した。このほか、震災および原発事故の影響により一時大きく減少した市内居住人口を回復させるため、交流人口拡大と移住定住を推進している。
しかし、震災後の人口減少や商店街の空洞化に歯止めはかかっていないのが実情だ。「現代は課題が複雑多様化し、これまでの手法がそのまま通用しない時代と言われている。都市間競争も激しさを増す中、このまちを着実に復興・再生し、未来に継承するためには、自ら課題を見つけ出し、その課題を解決できる人材を市役所のみならず地域で一人でも多く輩出することが必要」と南相馬市の担当者。
南相馬鹿島サービスエリアは常磐道の県内区間で唯一のSAで、観光施設「セデッテかしま」を備えている。市によると、年間120万人が利用する。相双地方の2車線区間の4車線化が完了すれば、年間200万人まで増加すると見込まれている。隣接する南相馬鹿島スマートインターチェンジ(IC)の24時間利用が可能になれば、利便性は一層高まる。
「相馬野馬追やサーファーが集まる烏崎海浜公園、サイクリングロードなど誘客や交流人口の拡大につながる観光資源は少なくない。これらを組み合わせる工夫が必要。交流サイト(SNS)で情報発信することも進めたい」と南相馬市の担当者は語る。
事業構想大学院大学は平成24年4月に東京・南青山に開学した、事業構想と構想計画を構築・実践する社会人向け大学院だ。拠点は東京ほか、大阪、福岡、名古屋にあり、これまで361人が修士課程を修了し、研究員は1000人以上が参加している。今年度から宮城県仙台市でも開校。同事業は仙台校を中心に行われる。
市では「新しい視点で、他にない特色ある事業をいかに打ち出すかが重要だ。鹿島区の潜在能力は大いにある。今回のプログラムを通して震災前よりも活気のある地域にしたい」としている。



